IN THE CITY DIGITAL
川崎大助『スタイルなのかカウンシル』
第十九回:農場の動物だと知ること
© 2020 BE AT TOKYO.
BEAT CAST
SOMA SUZUKI
2022.09.02
「住みたい街ランキング」は、そのほとんどが簡単なアンケートを元に作られている。「いま人気の地方都市」なんてのも例外ではない。そうした街や場所の魅力を、大雑把なアンケートではなく、あらゆる側面から分析・数値化し、可視化できるとしたら……。京都大学やロンドン空間解析研究所というエリートコースを経て、都市と空間の分析をしてきた若き才能・鈴木綜真にかかれば、その場所を丸裸にし、そこに新たな価値を見出すことができる。
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鈴木さんは京都大学(以下、京大)を経て、ロンドン空間解析研究所に進み、2019年に音楽で場所を探せるアプリ「Placy」を立ち上げました。これだけ聞くと、まさにエリート街道という感じです。
鈴木
全然です。頭の回転もまったく早くないですし。大学とかは、勉強しまくったから受かっただけで。
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特殊な家庭環境だったり?
鈴木
いえいえ、日本人の超平均的な家庭です。親は毎日家でご飯を食べて、朝は新聞を読んで、みたいな。本当に普通で。
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では、幼少期の頃のお話から伺いたいのですが、頭が特別よかったわけではないと。
鈴木
算数だけはよかったですけど、他の科目はまったく。とにかくいたずらが好きで、好きな女の子の靴のなかに虫のを入れたりとかしてましたね。
ー
……やりすぎです(笑)。
鈴木
ですよね(笑)。
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中学は私立に行かれてたんでしょうか?
鈴木
家の近くの公立です。
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勉強にのめり込んだタイミングは?
鈴木
本当にしょうもないんですけど、中学3年のときに彼女がいて、その子がわりと偏差値の高い高校へ行くってなったんです。だったら自分もそこを目指そうとなり、勉強をし始めた感じですね。結局その子は落ちちゃって、ぼくだけ受かったんです。
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彼女はどうされたんですか?
鈴木
行方不明になったり、逮捕されたりして、いろいろあったんです。それで超へこんだし、加えて高校にいる人たちともあまり馴染めず、全然面白くなくて、高校に行かなくなっちゃって。
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京大を目指すきっかけというのはなんだったんですか?
鈴木
高校に行かなくはなったけど、現実逃避的に勉強を本格的にはじめたんです。で、「関西だったら京大がイケてるし、行こか」くらいの感じで京大を目指しました。高校に行かず1日17時間くらいずーっと勉強していたら、そりゃ受かりますよ。
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それで無事、京大の物理工学科に。
鈴木
そうです。
ー
なぜ物理工学科に?
鈴木
これもくだらないんですけど、医学部の次に難しかったから。ただそれだけです(笑)。
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京大からMITは、どういう経緯だったんでしょうか?
鈴木
まず、就職はしたくなかったんです。なので、大学4年生のときにバルセロナや南米を1年くらいプラプラしていて。それにも飽きてきたときに、MITのメディアラボでインターンの募集を見つけて。しかもハッカソン(短期間に集中的にソフトウェアの開発作業を行うイベント)だけで入れたので、試しにボストンまで飛んでハッカソンに参加したら、無事に入所することができたんです。それが2017年ですね。
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その時点で、コードは書けてたんですか?
鈴木
大学3年生のときにオーストラリアに交換留学で行っていて、そのときめっちゃ暇だったので、コードの勉強をしていたんです。そこである程度は書けるようになっていて。
ー
ちなみにMITでは何を?
鈴木
音楽の版権管理というのをやっていました。あるアーティストの音楽をサンプリングしたときに、そのアーティストに収益は入らないので、ブロックチェーンを紐づけて収益化させるような。
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MITには1年ほど在籍してたんですよね。どうでしたか?
鈴木
ボストンってMITのほかにハーバードもあるので、めっちゃ優秀な日本人が集まってるんですよ。当時、寮に住んでいたんですけど、そこで結構人生を変える出来事がありまして。
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というと?
鈴木
入寮した初日に、高校卒業して、そのまま渡米してメディアラボで研究してた片野くんっていう研究生に「鈴木くんは何がしたいんですか?」って毎晩ニコニコで聞かれて、そのとき、ぼく、まったく答えられなかったんです。それがすごく悔しくて……。適当に生きていたこれまでの人生が恥ずかしくなっちゃったんですよね。
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たしかに、片野くんは明確な目標があって来ているわけですものね。
鈴木
8ヶ月くらいずっと考えていました。そのなかで自分が一番興味あるのは何かを考えていたときに、バルセロナに滞在していたときのことを思い出したんです。
例えば新宿とかになると、道は入り組んでいて、人は職場をはじめとした目的地に向かうじゃないですか。バルセロナは街の作りがグリッド状で観光都市です。人は目的なく歩いていて規則性がないように見える。なんですけど、その光景をマンションの屋上からずっと見ていると、徐々に規則性があることに気づいて、歩いている人の行動を予測できるようになっていったんです。そのときから「空間全部と人間の特徴を情報化したら、人流をシミュレーションできるんじゃないか」とぼんやり考えていて、片野くんのおかげでその興味を再認識して、自分はこれでやっていこうと至った感じです。
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そこから、いまにつながる都市の研究の道へとシフトしたと。
鈴木
そうです。その分野の権威がロンドン大学の空間解析研究所というところなので、半年ほどMITに在籍したあとに、ロンドンへ。
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その研究所では、どういったことを学んでいたんでしょうか?
鈴木
とにかく街のいろんなことを情報化してました。特定のエリアのなかにどのくらいの病院の数があるかとか、交通量とか、世帯年収とかを調べたり。ぼくは「空間のすべての特徴を情報化するんだ!」って息巻いてたんですけど、研究所ではそんな機能的な側面の情報しか取ってなかったんです。そこがロンドンの街のコンサルもしていたので、そりゃ、ロンドンの街も面白くなくなるよなと。
例えば、新宿と渋谷の2つの街があって、そこに住む人の世帯年収や年齢・性別を見たときに、数字上は同じだとします。全然違う街なのに、デベロッパーはその数字だけを見て判断するので、そこに何かを作るとしたら同じようなものを作る。本来は、それぞれの街にいる人はどんな音楽を聴いて、どんなファッションが好きかみたいな感覚の部分が大事で、それに則ったものを作るべきなのに、数字だけで判断されるわけです。
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まさにいま、どんな都市も同じようなショップやビルが並んで、没個性になっているのはそのせいなんでしょうね。
鈴木
なので、ロンドンから帰国して、そうした感覚の部分を可視化させようとしたんです。一例ですけど、まず2つの街の画像を用意して、どっちが美しい、どっちの道を歩きたい、みたいなアンケートをとるんです。そのデータをPCに食わせて、Googleのストリートビューを歩かせると、東京の中で視覚的、論理的にどこが面白いかを見つけられるんですよ。
それがビジネスになるやろうと思ってやってたときに、ボストンに住んでる友達から「『Wired(雑誌)』のカンファレンスがあるから出ないか」と誘いがあって。まだ、ぼくが何もはじめてない時に(笑)。
ー
そのときは、何を発表されたんですか?
鈴木
街の中で使われてない場所って、自販機が置かれたり駐車場になったりしますよね。それっておもんないなと思っていたんです。短期的にはいいけど、長期的にみたら街の価値にはならないと。なので、ここには何があるべきか、最適なものをアルゴリズムで弾き出して、例えば図書館のほうがいいとか、自販機よりもアートがいいとか、空きスペースのマッチングプラットフォームを発表したんです。住所を入れると、空間のポテンシャルがわかるようなものですね。
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それもかなり面白そうですが、結局実現せずですか?
鈴木
そもそも、やりたいことが「街と感覚を取り戻す」ということだったので、実際に運用まではいきませんでした。
そこから、もっと街に対する感覚を具体化していこうとしたなかで、「音楽」と「場所」を紐づけたらおもしろいと思って、「Placy」をはじめたんです。
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改めて、「Placy」はどんなサービスなんでしょうか?
鈴木
レビューやランキングだけじゃなく、普段聴いている音楽から自分の感性に合う場所を探せる地図サービスです。いまは1万人以上ユーザーがいてくれて。
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まさに感覚や感性で、街を捉えることができるサービスだなと感じました。三菱地所ともコラボレーションしたりと、認知度も増しているように感じます。
鈴木
ありがとうございます。実は、それとは別に7月にはじめたサービスで、音楽版の「ポケモン GO」みたいなものも作ったんです。「SMACK」というものなんですけど。
ー
ポケモンじゃなく、音楽をゲットするみたいな感じですか?
鈴木
そうです。他のユーザーが落とした音楽を拾い集めていくんです。そして、例えば 80年代のヒップホップを50曲集めたりっていう一定条件を達成すると、その音楽の文脈に応じたファッションアイテムが獲得できると。それを アバターに着せて楽しめるアプリで。
ー
そんな壮大なアプリも開発していたとは……。
鈴木
いま、アーティストにも協力してもらって、そのアーティストのゆかりの地へ行くと関連アイテムをゲットできるようなこともしています。めっちゃ楽しいんですけど、ゲーム作るのって難しいですね……。
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なるほど。そこに関しては続報を待つとして、データ分析というのは具体的にどのような分析なんでしょうか?
鈴木
GPSのデータって緯度と経度、そして時間がわかるんです。そこに場所を紐づけると、その人は週に何回カフェに行って、何回クラブに行って、みたいなものが見えてくるんです。そこに、もっといろんな情報を加えていって分析すると、街を歩く人たちや、訪問地の感性といった、今まで定性的にしか捉えられなかったものの情報化に一歩近づきます。そういった街と空間のデータ解析です。
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たとえば東京で住み心地のいい場所とかも算出できたり?
鈴木
まさにいま、それをやりたいと思っているんです。不動産屋さんって簡単なアンケートだけで「住みたい街ランキング」とかやってますけど、それなんかももっと多様な視点で見れると思います。
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単純なアンケートではなく、感覚も数値化できたら、たしかにそんなランキングは意味なくなりますね。
鈴木
これは良し悪しあるんですが、例えば清澄白川が数年前にグッと人気が出たように、次のイケてるネイバーフッドも予測できるようになると思うんです。
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例えば、いまでいうと幡ヶ谷のあたりが、盛り上がっている感じはしますよね。
鈴木
感覚でいうとそうですよね。でも、それだけだとデベロッパーの論理には勝てないです。そうした感覚的な部分をデータとして示せると、一気にパワーになると考えています。
なので、ぼくらは「物理空間を“再”最適化する」というのをミッションとして掲げていて。街自体は便利になって最適化されているけれども、そこにぼくらの感覚のデータを織り交ぜて、「再度最適化」していくと。
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鈴木さんのデータ解析が進めば進むほど、おもしろい街はもっとおもしろくなって、つまらない街も輝きを取り戻しそうな気がします。ちなみに、鈴木さんが次にやりたいことはありますか?
鈴木
いまは空間や人流のデータ分析のことしか考えていないです。外国でのプロジェクトも増やしたいですね!
Placy Founder
鈴木綜真
1993年生まれ、大阪出身。京都大学工学部物理工学科を卒業後、マサチューセッツ工科大学(MIT)の メディアラボにて、音楽の著作権を管理するプラットフォームの開発に参加。その後、ロンドン大学で都市解析を学ぶ。2018年9月に日本へ帰国後、音楽で場所を探せる地図サービスアプリ「Placy」をローンチ。 空間・人流データの分析に特化した「Spatial Pleasure」を運営。 Wired Japan「Cultivating the CityOS」連載。
Instagram : @somasupersoma
次の東京を創造していく表現者にスポットを当てたインタビューコンテンツ。