BEAT CAST
PHOTOGRAPHER
Masumi Ishida
“光と記憶”を追いかける写真家、石田真澄
© 2020 BE AT TOKYO.
BEAT CAST
xiangyu
2021.02.05
「プーパッポンカリー」、「風呂に入らず寝ちまった」、「敷礼なし角部屋 しかも風呂トイレはユニット(良物件)」。頭の中に「?」が浮かび上がるかもしれないが、これはとある女性アーティストが歌うリリックだ。彼女の名前はxiangyu(シャンユー)。シュールなリリックと、トライバルなビートの組み合わせが思わずクセになり、一度聴くと耳から離れない。だが、「もともと人前で歌うことにコンプレックスを抱いていた」と語るxiangyu。どうして彼女はステージに立ち、マイクを握るのか。そこには変化を素直に受け入れる柔軟な姿勢があった。
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xiangyuさんが音楽活動を始めたきっかけを教えてください。
xiangyu
今のマネージャーさんに声をかけられたのがきっかけですね。私はもともと服を作るのが好きで。高校生の頃はホームセンターにハマってたんですが、そこで売っているブルーシートや軍手を使って服を作り、またその服を着て「ホームセンターにブルーシートや軍手を買いに行く」という事をしていました。当時はカメラマンの友達とかいなかったから、服は自分で着て、撮影はその辺にいる人にデジカメを渡して撮ってもらったりしていて(笑)。
ー
何か目的があって服作りをしていたんですか?
xiangyu
特に目的はなく、ただ自分が何かを作りたくて、それで一番熱中できる物づくりが服でした。でもだんだん人に見てもらいたくなって、東京ビッグサイトでやっているデザインフェスタに出展したんですよ、たしか18歳くらいの頃かな。それも私が高校生の頃からやっている「ホームセンターにあるもので服を作って着てみた」の服や写真を展示していただけなんですけど、そこで今のマネージャーさんに声をかけられて、「一緒に音楽をやりませんか?」って。
ー
唐突にですか?
xiangyu
そうなんです(笑)、「なんで音楽?」って思いましたね。私は人前で歌うのがコンプレックスだったから、音楽活動をしようなんて思ってもいませんでした。だから、それから6年くらい返事するのを放置してたんです。
ー
6年も!?
xiangyu
はい(笑)。その6年のあいだに文化服装学院に通って、卒業後はアウトドアアパレルの会社に入ったり、デザイナーアシスタントをしたり、フリーランスで衣装製作やスタイリストの仕事をしていました。ずっと服を作る表現しかしてこなかったですが、24歳の時、年女だったという事もあり、急に今までやったことないことにチャレンジしたくなったんです。自分のしたい生き方ってこの方向で合ってる?って考え始めたら、そういえば私のことを6年間も気にかけてくれている人がいるなぁ、と思い出して。
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ずっと連絡は取り合っていたんですね。
xiangyu
そうですね。3、4ヶ月に1回くらい「最近どう?」みたいな感じでメールを送ってくれて。「音楽やろう!」って説得されるというよりは、近況を話したり、「こういう表現をしてみれば?」みたいなアドバイスとか、「こういう人が合うんじゃない?」って人を紹介してくれたりしたんです。その中に雑誌の編集者の方がいて、すぐに意気投合したんですよ。
ー
なるほど。
xiangyu
「あなたことをあんなに気にかけてくれる人、社会にでたらなかなか出会えないよ」みたいなことを言われたりして、それで徐々に私の中で存在が大きくなっていったというか。
ー
服を作っているときに「その辺にいる人にカメラを渡して撮ってもらっていた」と話していましたが、人に見てもらいたいという気持ちは元々あったんですか?
xiangyu
自分自身よりも服を見てほしいという気持ちがありました。でも作品を通して自分が注目されたい気持ちもあったわけだから、見てほしいという気持ちはあったのかもしれませんね。
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どこか物足りなさを感じていたんですね。
xiangyu
そうなのかな。衣装を作り現場へ行って、それを着たスポットライトの当たっている人たちを見ていたのも、なんとなくもっと違う表現をしてみたいと思うようになったきっかけのひとつですね。
ー
そうした気持ちが溜まって音楽活動をスタートしたわけですね。
xiangyu
自分は服作る表現が一番得意でそれ以外にできる事ないって思っていたし、人前に出るのは得意じゃないし、ましてや歌うなんて......!、と思っていましたが、もしかしたら今までずっと自分で自分に「私なんて......」と呪いかけてたのかもなぁと24歳くらいの時に思い、新たな一歩を踏み出す決意をしました。
ー
歌うのはコンプレックスだったと話していましたが、音楽自体は好きだったんですか?
xiangyu
家でついてたらMステを見るくらいで、iPodも持ってなかったし、ライブも行ったことなかったです。この活動を始めるにあたって勉強の為に行ったフェスが初めてのフェスでしたし、全然わからなかったですね。本当に素人だったんです(笑)。
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でもライブ映像を見ると、ちゃんとオーディエンスに向かって唄ってますよね。
xiangyu
一番最初はマイクを持ってステージに上がっただけで褒められました(笑)。今は楽しいですけど、その時は早く家に帰りたかった記憶があります(笑)。
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曲はどうやって作っていったんですか?
xiangyu
一緒にやってるケンモチヒデフミさんがトラックを作ってくれて、「こういう曲はどう?」ってたくさんサンプルを送ってくれたんです。でも、私はその良し悪しがわからないから、なんとなくで判断するしかなくて。それでいろんな人の曲が入ったプレイリストを共有してくれて、それを聴きながら勉強したというか、いろんな音楽を知っていきました。
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歌詞はxiangyuさんが書いているんですよね?
xiangyu
そうですね。はじめのうちは「こういう言葉の並びとかどうだろう?」って、ケンモチさんが提案してくれたりしていました。歌詞も書いたことがなかったから、最初は「歌詞 書き方」でググったりしていて(笑)。じゃあまず自分の日記みたく、気になってる事や、ことばをメモするところから始めよう! となり、だんだんと言葉や自分が拾いたい日常のモチーフの輪郭が見えてくるようになりました。
そうやって集めた言葉たちを、はじめは他の人の曲の替え歌みたいな感じで歌詞をハメ替えてみたりしていて、次第に日本語の持つ言葉の音が面白いなぁと思うようになりました。例えば「あ・い・う」でも語順が違うだけで全然違って聞こえるし、その組み合わせでリズムも違って聞こえて。だからその替え歌の特訓をしながら、言葉を音と捉える感覚を身につけていったんです。
ー
ダンスミュージックとxiangyuさんのシュールな歌詞が組み合わさって、独特な世界観を作っていますよね。
xiangyu
今は素人なんて言いたくないですけど当時はそうだったから、わからないからこそいい意味で固定概念がなかったのかもしれないですね。私はsnsでも呟かないくらいの小さな日々の出来事をいつもメモしてるんですが、その中にあったのが「また今日も風呂入らずに寝ちゃった」でした(笑)。そういう自分の生活の中にある見過ごしちゃいそうな事を大切にしています。
ー
例えばイヤなことがあったときとか、落ち込んだときに、それを慰めたりとか、人生の辛さを歌うアーティストもいますよね。そうした世界観はイメージしなかったですか?
xiangyu
全然しなかったです、残念なくらい(笑)。私が辛くて悲しいときに求めるのは、それに寄り添ってくれることじゃなくて、辛い事を忘れちゃうくらいのくだらないことだったりするんです。前に歌詞どうしよーってなってる時にケンモチさんが教えてくれたのが「俺のパンツは今日ピンクだぜ」ってひたすら言ってる海外のヒップホップの曲で。この曲かっこいいのにそんなこと言ってたの(笑)って衝撃を受けましたね。曲を通して伝えたい事やメッセージがどうとかって事より、私はそんなテンションで曲を作りたいって思いました。
xiangyu
自分が人生の岐路に立ったときに寄り添ってくれる曲も素敵ですけど、それはすでにやっているアーティストがたくさんいるから、その人たちに任せればいいと思っていて。私は日常で切り捨てられちゃう小さな出来事とか、くだらないことにフォーカスする方が好きなんだと思います。音楽だけに限らず、私のすべてのものづくりの根底にはそういうマインドがありますね。
ー
常に素をさらけ出してますよね。
xiangyu
今考えていることも、もしかしたら明後日には変わっているかもしれないし、全然それで良いと思うんです。今の自分と一昨日の自分は違う人間だっていつも思っていますし。でも、私がこうして好き勝手できるのは、マネージャーやケンモチさんをはじめとするチームのみんなのおかげなんです。トライアンドエラーを良しとしてくれるチームです。
ー
そうしたxiangyuさんの考え方に影響を与えた人やモノ、コトはありますか?
xiangyu
作家の西加奈子さんですね。私は本を読むのが好きなんですけど、すべての表現者の中で西さんが一番好きなんです。ちゃんと自分の芯があるのに、ゆらゆらと流れに身を任せながら生きている感じがするというか。
ー
きちんと自分の意思を持ちながら、一方で柔軟性もあると。
xiangyu
いい意味で肩の力が抜けている人だと思っていて。だからこその着眼点であったり、紡げる言葉があるんだなと。変わることを恐れていないというか、変化を受け入れている感じを、作品やインタビューで話されていることの中から受けますね。
ー
そうした感覚がxiangyuさんの中にも育まれている。
xiangyu
考え方も、物の興味も日々変化していくものだと思っています。強く信じるものやブレない気持ちは大切にしながらも、柔軟な姿勢でいた方がバランス良く新しい事を取り入れていける気がします。だから時には身を任せてみて、なんかちょっと違ったなって思った時は軌道修正して。音楽を始める前の自分よりも、今の自分の方が日々自分を更新出来ている気がして好きですね。
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先の見えない世の中にあって、難しい質問になってしまうのですが、5年後にどうありたいですか?
xiangyu
本当に難しい質問ですね(笑)。仰ってるように、本当に来年はましてや、今年もどうなるかわからないから。でも、自分の事をまず一番大切に出来る自分でありたいと思っています。自分の事を大切に出来ない人は、他人の事まで考えられないですから。
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では、目の前にある目標はありますか?
xiangyu
EPを出す。本当に直近の目標です。
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音楽以外の目標はありますか?
xiangyu
元気でいたいですね。最近また銭湯にハマり出してて、毎晩のように整えに行っています。以前は毎日人と会い、一晩中遊んでいて、1人の時間いい加減ほしい! って思ってたくらいだったのに、今じゃ友達にもファンのみんなにも会えずでそりゃあ病むよなぁと思いました。気持ちが健康じゃないとありもしない事考え出したりもするし何もできなくなってしまう。だから心身ともに健康でいられるように銭湯で整えたり、その後歩きながらアイスを食べたりといつも以上に自分を甘やかしています。
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こういう状況だからこそ、健康に限らず、当たり前のことが大事だと気付きましたよね。
xiangyu
本当にそうですね。会いたい時に友達に会えて、行きたい時にご飯を食べにいけるって事が今はすごく尊いです。
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最後にもうひとつ聞かせてください。xiangyuさんにとって東京はどんな場所ですか?
xiangyu
気合いが入る土地。私は神奈川出身なんですけど、実家から東京へ出てくると「よし、やるぞ!」っていう気持ちになるんです。
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挑戦する場所みたいな?
xiangyu
そうですね、そんな感じです。
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東京の魅力はどんなところにあると思いますが?
xiangyu
良くも悪くもですけど、いろんな人がいるところかな。今日食べる物に困ってる人もいれば、自分が食べきれない程の物を注文したりする人もいる。明るくなったら寝て暗くなったら起きる人、その逆の人。路上で生活してる人、その人を殴る人、それら全てが見えていない人。自分は知らなかった生き方・考え方がこんなにあるんだといつも思います。いろんな知らない事に多く出会える事が魅力ですね。
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そんな中で自分はこうありたいと考えることはありますか?
xiangyu
自分の芯を持ちながら柔軟であること。力みすぎると見えないものもたくさんあるから適度に力を抜いていたい。トライアンドエラーを恐れずに自分らしく突き進みたいです。
MUSICIAN
xiangyu
1994年生まれ、神奈川県出身。服飾系の専門学校を卒業後、アパレル会社での勤務や、舞台衣装のデザイナーアシスタントを経て、2018年より音楽活動をスタート。2019年5月に『はじめての○○図鑑』をリリース。また、自主企画イベント「香魚荘」も行うなど、精力的に活動中。
Instagram:@xiangyu_dayo(https://www.instagram.com/xiangyu_dayo/)
次の東京を創造していく表現者にスポットを当てたインタビューコンテンツ。