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Masumi Ishida

“光と記憶”を追いかける写真家、石田真澄

2021.02.05

Photo:Ko Tsuchiya / Text:meiji (marble studio)

石田真澄は、広告・雑誌などの撮影を手がける写真界の若き才能だ。 高校生の卒業式を切り取ったソフトバンクの“しばられるな”、部活の仲間を映したCalorieMateの“部活メイト”。若々しいエネルギーが滲み出るこれらの写真は全て、石田がシャッターを切ったものであるが、被写体の脇役に回ることの多い写真家の名前は、あまり広く知られていないと推測する。 写真を始めるキッカケは、名残惜しさからと語る現役大学生の石田。何に心を奪われ、ファインダーを覗き、その瞬間を記録するのか。彼女の思い出をなぞりながら、石田の写真家としてのスタイルに迫った。

その一瞬一瞬を写真に収めておきたくて。

石田さんは、いつから写真を撮りはじめたのですか?

石田

初めて自分専用の携帯電話を持ったときなので、中学生になります。その後、LUMIXのカメラを買ってもらい、日常的に写真を撮るようになったのですが、高校入学からまもなく海外研修があり、そのときにLUMIX、携帯以外の何かを持っていきたいと思ったとき、小学生の遠足で写ルンですを使っていたのを思い出して、そこからフィルムカメラを愛用するようになりました。

当時はどのような写真を撮っていたのでしょう?

石田

私は中高一貫の女子校に通っていて、6年間ずっと同じ27人のクラスメイトと学生生活を過ごしてきました。海外研修も3週間ほどずっと一緒だったりと、家族より一緒にいる時間が長かったかもしれません。高校に入ったタイミングで一緒に過ごす時間があと半分しか残されていないことに気が付いたとき、「高校生」という何者にもなれるような全能感がある肩書きがなくなることや、みんなと離れ離れになるのがとても名残惜しくて、その一瞬一瞬を写真に収めておきたいと思い、学校の内外で写真を撮っていましたね。

写真集のなかには防災訓練の一幕とかもありますよね。

石田

今思えば、写真にはすごく寛容な学校だったように思います。親たちも閲覧できるよう、学級新聞をネットで配信していたため、先生たちも日常的に写真を撮っていたし、「あのときのあの写真ある?」と、みんなで写真を共有していました。携帯と違って、カメラは他の通信機能がないですしね。私が撮った写真は、LINEグループのアルバムにシェアしたりもしていました。

そのようなキッカケで写真を始めた石田さんですが、そのなかでも影響を受けた写真家はいますか?

石田

今でこそ色々な方の写真を拝見するようにしていますが、キッカケとなると具体的な写真家や作品集はなくて。その代わりに、私は雑誌が大好きだったので、そこに写真を提供されている商業系の写真家さんには影響を受けてきたと思います。

初めは学校生活を記録してきた石田さんですが、今では大手各社のコマーシャルフォトや憧れだったと語る雑誌まで、写真家として広くお仕事をされています。現在、現役の大学生ということもあり、学業と並行しての活動だと思うのですが、最初はどのようにしてお話しをいただいたのでしょうか?

石田

大学に入って個展を開催したことを機に、色々な方々に写真を見ていただけるようになって、翌年に初の作品集『light years -光年-』を発刊しました。最初は知り合いをはじめ、それこそインタビューしてくださった編集の方が仕事をくださったところから始まったので、最初はウェブが多かったですね。

“私の写真”を貫くこと。

石田さんの写真には、人情や温かさがこもっていて、青や緑がかった写真にはどこか見覚えのある光が記録されていることが多いような印象を受けます。具体的に、どのような瞬間にシャッターを切りたくなるのでしょうか?

石田

太陽の光が綺麗なとき、です。太陽から注がれる光も好きですし、何かに当たって反射している光も好きです。基本、晴れの日は毎日写真を撮っているんですけど、逆に曇りの日はおやすみで、梅雨の時期はもう仕事休もうかなと思っています(笑)。

カメラやフィルム選びの基準はありますか?

石田

毎日持ち歩くものだと、携帯性が高く、気兼ねなく写真が撮れる機種が好きですね。今日は愛用機からFUJIFILMのKLASSEを持ってきました。露出、絞り、焦点など、カメラの基本的な設定もスムーズにできるので、使い勝手はいいですよ。実際に使用するフィルムも色味や質感といった好みから、富士フイルム製のものを愛用しています。

オファーを受けて仕事として撮る写真と、作品として能動的に撮る写真で、被写体へ対する意識の向け方や絵作りの仕方に何か違いはありますか?

石田

なるべく、仕事とプライベートワークでズレが生じないように写真を撮ることを心がけています。一緒に遊んだ友達や毎日歩く普通の道を撮るような感覚を仕事に持ち込んで、いつ写真を撮っても“自分の写真”になることが理想です。きっと、私に撮影をお願いしてくださる方は、私の写真を見てオファーをくださっていると思うので、現場や相手によって器用に変えるのではなく、私も私の写真を全うできるよう、常に心がけています。なので、基本的にお仕事のお話しをいただく場合は、スタジオではなく、ロケでの撮影がほとんですね。なので、撮影場所も私らしい写真になるように提案しています。

現代社会ではSNSの台頭により、写真はおろか、動画さえも消費される時代になりました。1枚1枚を作品として発表される石田さんは、このような時代の流れについて何か思うことや、自ら争うことはありますか?

石田

SNSは色々な情報を得られますし、情報社会なのであるものを使用することには全く反対することはありません。でも、目的をもって撮影した写真は、メインとなる発表の場で見て欲しいです。例えば、雑誌の編集の方は、雑誌という媒体そのもののサイズ感を考慮して写真を配置して、スペースを作ったり、文字を入れたりしますよね。写真集も含め、紙媒体は印刷物なので、紙やインクの質感ひとつで写真の見え方がガラリと変わります。『GINZA』は1冊の雑誌でもページによって紙を変えたりしていますし。もちろん、私自身もdマガジンに登録をして、そこでも雑誌を読みますが、誌面で見せる写真は誌面で見てほしいですし、写真集で見せる写真は写真集で見てほしい。きっと、スマホのサイズ感でSNSのフィードにポンっと出てきた写真と、実際に大きくプリントアウトされた写真では、受け取る感情も違うと思うので。

石田さんは自分の写真を俯瞰して見ることはありますか?

石田

仕事ではない写真のほとんどは自分のために撮っているので、特別そこにメッセージがあったりはしません。このように見られたいとか、説明っぽい情報も一切ないので、それは写真家としてのタイプなのかなと。もちろん、基本は綺麗だから、楽しいからと、その時々の感情に素直に撮っています。見る側の写真の善し悪しの判断は、見るタイミングによっても違うと思うので、今はそれなりでも、5年後に見て感動してくれたら嬉しいです。どこかのタイミングで、何かをいいと思ってくれることが本望です。ただ、私が思う“私の良い写真”の定義は、その1枚を見るだけで前後の記憶が全て思い出せる写真ですね。

正解は自分で見つけるもの

陳腐な質問かもしれませんが、石田さんは写真のどこに最も魅力を感じていますか?

石田

学生の頃に学んできた勉強と比べて、芸術の分野には正解や絶対が存在しないと思っています。すごく懐が深く、寛容で、これでいいのかと迷っている人にもそっと手の差し伸べてくれる優しさに魅力を感じています。間違っていることが一切ないからこそ、自分がいいと思ったら許される分野なんですよね。私の場合、写真以外の選択肢を提示されたときに「私はこれがいい、なぜなら……」と言えませんでした。でも、写真には自信を持って言うことができて、それは写真が持つ寛容さのおかげだと思います。写真に限らず、芸術の正解は自分で作るものです。なので、本質的に写真の正解は人の数だけあるのではないでしょうか。

5年後や10年後、どのような写真家になっていたいという未来像はありますか?

石田

昔から「変わったね」と言われるのが怖くて。嬉しいことに、大抵の場合は肯定的な意見ですが、「変わったね」と言われると「どう変わったの?」と、人からどう見えているのか、すごく気になってしまうんですよね。他の写真家さんの作品を見て「素敵だな」、「私もこんな風に撮りたいな」と思うことはありますし、技術的にやれることはたくさんありつつも、根本的な部分は変わらずにいたいです。私は自分の感情に素直に、好きなものだけを写真を撮っているので、常に自分の写真が一番好きなので。あとは、その時の自分に素直でいたいですね。雑誌が好きだったら、雑誌でも写真を撮っていてほしいし、むしろ全然違うことが好きだったら、その気持ちにも従えたらいいなと思います。

石田さんにとって、TOKYOとはどういう場所ですか?

石田

常に変化をし続けている場所。街の中の変化は肯定的に受け入れているので、その変化を見ているのが面白いです。

PHOTOGRAPHER

石田真澄

1998年生まれ。2017年5月自身初の個展「GINGER ALE」を開催。2018年2月、初作品集「light years -光年-」をTISSUE PAPERSより刊行。2019年8月、2冊目の作品集「everything with flow」を同社より刊行。雑誌や広告などで活動中。

Instagram - @8msmsm8 ( https://www.instagram.com/8msmsm8/ )

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次の東京を創造していく表現者にスポットを当てたインタビューコンテンツ。