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MOMOKO NOJO

声を上げて社会を変える。NO YOUTH NO JAPANが思い描く明るい未来。

2021.02.05

Photo:Kazunobu Yamada / Text:Yuichiro Tsuji

2016年、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた。投票率の向上を目指すもくろみだが、ここ数年、選挙のたびに報じられるのは投票率の低迷だ。そんな中「若い世代の政治参加を当たり前にしたい」と唱えるのは、政治や社会問題を扱うメディア「NO YOUTH NO JAPAN」の代表を務める能條桃子さん。現役の大学生である彼女は、インスタグラムを筆頭としたSNSを駆使し、政治や社会問題に関する投稿をおこなっている。今回はそんな彼女の活動や、その先に見据える未来について語ってもらった。

自分が納得のいくように活動しなければいけないと強く感じた。

能條さんが代表を務める「NO YOUTH NO JAPAN」では、どうのような活動をしているのか教えてください。

能條

国内における若い世代の政治参加をもっと当たり前のようにしたいというのが、私たちの願いです。はじめたのは国政選挙があった2019年の7月で、私はその頃デンマークへ留学に行っていました。デンマークでは若い世代の投票率がものすごく高くて、20代で80%を超えているんです。日本でも同じように若い人たちが政治に関心を持って欲しい。それを叶えるためにインスタグラムを中心としたSNSを利用して、政治についてわかりやすく解説するような発信をするようになりました。

選挙における投票率の低さは、ニュースなどでも大きく取り上げられています。裏を返せば、投票率を上げることで自分たちの生活を変えることができるという意味でもありますよね。

能條

そうですね。でも、若い世代が政治に近づくだけではなく、政治のほうも私たちに近づいてきてほしいと思うようになりました。それで「NO YOUTH NO JAPAN」では、政治家との対話の機会を作ったりとか、政治家に私たちの意見を伝えて、政治の仕組みや方法も変化できるような活動も行っています。

そもそも能條さんは昔から政治や社会に関心があったんですか?

能條

ジェンダーの問題であったり、地方の経済格差など、昔から社会に違和感を感じていました。こんな社会のままだと、将来生きづらくなる。だから、「NO YOUTH NO JAPAN」の活動は自分のためにやっているという意識もあります。

そのベースが作られたのは小・中学校のときですね。当時から地域のボランティア活動や子共議会っていう取り組みに参加したりして、地域に貢献するような活動が好きだったんです。それが高校や大学に進学することで日本社会に興味を持つようになりました。恐らく人一倍パブリックマインドが強いんだと思います。

先ほどデンマークへ留学へ行っていたと話していましたが、それも社会や政治に関心があったからですか?

能條

そうです。デンマークって幸福度が世界一高い国ってよく言われているんですけど、その理由ってなんだろう? とか、税金高いのにどうしてみんな満足しているんだろう? とか、なんで投票率が高いんだろう? といったことに関心があったんです。

実際に行かれて、その理由は見えましたか?

能條

7ヶ月滞在して、日本とは根本が違うということを確信しました。教育や、人々の生活スタイルなど、いろんなところにその理由がありました。例えばデンマークには14の政党があるんですけど、若い人たちがみんなその政党の特徴をすべて理解していて、義務教育の過程できちんと政治に対して教えているんです。そしてみんなオープンに政治に関する話題を話し合っている。それは日本と大きく違ったところでした。働いている人たちも労働時間が短くて、空いた時間でゆっくりと政治に向き合う余裕がある。そして政治に対して声を上げ続けている。だから社会も変わっていくんだなと、説得力を感じました。

私は社会に対して文句ばかりを唱えていて、実際には動いていなかったことに気づいて、自分が納得のいくように活動しなければいけないと強く感じたんです。デンマークでは大人だけではなく、若い人たちもとにかく声を上げていて、それが社会に反映されて国が作られていた。日本でも活動をしている人はいますけど、状況はなかなか変わらないし、やっても無駄だと思うこともあったりして、まずはその状況を変えなきゃと今は思っています。

それで「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げたわけですね。

能條

そうですね。当時私はデンマークのことを発信するブログを友人たちと運営していて、その仲間や、留学中に知り合った日本人のデザイナーに声を掛けてスタートしました。

同じ共通言語を話せるコミュニティのように機能したい。

実際にインスタグラムの投稿を見ていると、デザインがポップで伝え方が上手ですよね。

能條

分かりやすく伝えることを意識しています。政治は堅いし難しいから、なるべくポップに分かりやすく伝えることが大事だと思っています。

能條

これはデンマークで実際に配布されている選挙の資料なんですが、すごくポップで目を惹くデザインですよね。私たちもそれに習っているんです。それと、新聞やニュースは毎日見ていないと出来事の文脈が読みづらいですよね。私はそれを埋めるのが教育の役割だと思うんですけど、それがまだまだ足りてない現状があります。なので、そうした文脈を理解できるような前提知識を蓄えられる投稿もするように心がけていますね。

最初の投稿から1週間でフォロワーの数が1.5万人まで伸びて、反響は大きく感じましたか?

能條

2019年の国政選挙に向けて活動をスタートしたと話しましたが、もしかしたら投票率が上がるかもしれないと期待を抱きました。でも蓋を開けてみれば、投票率は下がっていました。そのときに、選挙前にちょっとやっただけでは変えることができないということを実感しましたね。一方で、大きな影響は与えられなかったかもしれませんが、私たちの身の回りの友達が政治に関心を持ってくれたのは救いです。でも、それではまだ足りない。その後1年半活動をしていて、地方選挙にも目を向けながら地道にがんばっています。とある地域では高校にパンフレットを配ったりして、10代の投票率が7%も上がったんです。そうした結果を得て、徐々にですがやればできるという自信を獲得してきました。

活動をしていくなかで、より効果的なアプローチができるように内容を精査していったということですね。

能條

立ち上げから1週間で一気にフォロワー数は伸びたけど、その後は伸び悩んだんです。選挙のないときにみんなが政治に興味を持つにはどうしたらいいかを考えた結果、社会問題に対する意識は若い人たちの間でも広がっているけど、それが政治やニュースに結びついていないのが原因であることに思い当たりました。それからは選挙のときにみんなが考えるであろう社会問題をトピックとして扱うようにしたら、フォロワー数も伸びるようになりました。

フォロワーのみなさんはどんなトピックに関心があると推測していますか?

能條

環境問題やジェンダーに関すること、それにBLACK LIVES MATTERなどは、とくに反響が大きかったです。インスタグラムのストーリーズで質問を受け付けると、たくさんのコメントをいただいたりして、語りたいことがたくさんあったんだなと思います。

発信するだけではなくて、相互にコミュニケーションが取れるようになったのはいいことですね。

能條

徐々にではありますが、喋りやすい空気ができてきました。最初は情報を知ってほしいから始めたんですけど、今は「U30世代のための教科書メディア」と自分たちのことを謳っていて、同じ共通言語を話せるコミュニティのように機能したいという思いがあります。最近ではZOOMを使って、さまざまなトピックに関して話し合うようなイベントも開催していて、その効果も大きいように感じますね。社会に対してモヤモヤを感じる人には、実際に行動を促すように、署名サイトのChangeさんとのコラボ企画もやったりしました。

社会や政治のあり方には正解がないと思いますし、先ほども話していたようにすぐに変化が訪れるわけでもないですよね。そうした中で、能條さんのモチベーションになっているのはどんなことですか?

能條

基本的に「NO YOUTH NO JAPAN」の活動は自分がワクワクすることしかやっていないんです。みんなで活動のバリューを決めたんですけど、それも“ワクワク”なんです。政治って難しいし、楽しいことって他にもたくさんあるからこそ、わざわざやるならまずは自分たちが楽しむ必要があって、絶対に社会を変えなきゃいけないっていう使命感を背負うよりも、小さな変化を生みながら、みんなの共通点を探すことのほうが大事だと私は思っています。

なので、結果を出すことに執着しないようにしていますね。たとえば政治家の方々がインスタライブをやったらおもしろそうとか、そうしたアイデアを思いついたら、いろんな方々に声をかけてみる。実験的な感覚に近いかもしれません。そうやっていろんな選択肢を増やすことに挑戦しています。

文句ばかり言うんじゃなくて、行動できる自分でありたい。

能條さんは現在大学4年生で卒業間近ですよね。この先のことはどう考えていますか?

能條

今、大学院を受けていて、それが受かればあと2年は現状の活動を続けようと思っています。もし受からなければ、「NO YOUTH NO JAPAN」の活動を仕事にできるようにビジネスモデルを作ろうと考えています。今年は衆議院選挙があって、来年は参議院選挙もあります。そこまではきちんとやり遂げたいというのが目先の目標です。

ご自身が政治家になろうとは思わないんですか?

能條

絶対にならないとは言い切れないです。「ならないの?」ってよく聞かれるんですよ。議員さんと話していても「なったほうがいいよ」と仰ってくれる方もいて。ただ、私ひとりが政治家になったとしても、簡単に社会は変えられない。それならまずは若い人たちの関心を引くことや、きちんと政治の話ができるような下地作りが大事だと思っています。

最後に、5年後にありたい姿を教えてください。

能條

27歳かぁ。今こうして活動できているのは大学生っていう肩書きがあったり、20代前半で若いからなのかなと思うんですけど、問題意識に対してまっすぐアプローチできているのは、自分の生きる意味にもなっています。「NO YOUTH NO JAPAN」を始める前は社会も嫌いだし、文句しか言っていない自分も嫌いで、自己嫌悪を感じることもたくさんありました。でも始めてみると、社会のいい面に気づくことができて希望を感じるようになったんです。なので、5年後もそうした状態を守っていたいですね。文句ばかり言うんじゃなくて、行動できる自分でありたいです。

NO YOUTH NO JAPAN DIRECTOR

能條桃子

一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」代表理事。1998年生まれ、慶應義塾大学経済学部4年生。大学在学中にデンマークへ留学したことをきっかけに、2019年に“U30世代のための教科書メディア”を謳う「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げ、インスタグラムを筆頭としたSNSを利用し、若者の政治参加や社会問題に関する投げかけをおこなう。インスタグラムでは、スタートから1週間でフォロワー数1.5万人を集めるなど、その活動に注目が集まる。現在は約60名のメンバーと共に同メディアを運営している。
Instagram:@noyouth_nojapan(https://www.instagram.com/noyouth_nojapan/
https://note.com/noyouth_nojapan

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