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BEAT CAST

Hanami

元グラビアアイドル。花実の人生第二章。

2021.09.10

Photo:Shinsaku Yasujima / Text:RAM

BEAT CASTでは、これまで多くの人を取材してきた。そのほとんどが、それぞれのフィールドの第一線で活躍する人たち。今回フォーカスするのは、芸能界という華々しい世界をドロップアウトし、次の道へと歩を進めた元グラビアアイドルの花実さん。2021年9月現在、27歳、肩書きは特になし。愛くるしい顔に見合わぬボケと、イケイケキャラで人気を博した彼女が進む道は古着屋店主? それともイラストレーター?

福井から東京、芸能事務所、恵比寿マスカッツ。

夏目さんとお呼びしたらよいでしょうか?

花実

花実でお願いします。

では花実さんと呼ばせていただきます。手首に入っているのは福井県のタトゥーなんですよね? インスタで拝見して、地元愛が強いんだなと思っていました。

花実

グループにいたときに、どういうわけか、福井出身ってだけで笑いが起こることがよくあった んです。福井って、多分一番おもしろ都道府県っていうか。なんかわかりますよね?

なんか、わかります(笑)。

花実

一発福井県入れたらもうあとは何入れても怖いもんないだろうなと思って彫りました。

東京へは、いつ上京されたんですか?

花実

19歳のときですね。高校は定時制に通ってたんですけど、卒業するってなったときに就職も進学も考えてなくて。しばらくバイトをそのまま続けてお金を貯めて、上京しました。上京とか言ってますけど、実際は川崎の宮前区。そこから居酒屋店員とか、キャバクラとか、マルキュー店員とかいろいろやっていましたね。

それを経て、芸能界へ入られたと。スカウトだったんでしょうか?

花実

そうです。バーで知り合った女性から「ホームパーティするからおいでよ」って言われて。正直億劫だったんですけど、田舎育ちだし、先輩の言うことは絶対に断っちゃいけないと思って行きました。

田舎育ちというのは関係ない気がします(笑)。体育会系な思考だったと。

花実

いまは全然謎の会合のお誘いは秒でお断りするんですけど。で、ホームパーティって絶対キラキラしているし「向いてないよ私」と思いながらも、行ったわけです。東京と仕事と高層階とシャンパンをこよなく愛する大人たちの交流会でした。うわぁ〜と思いながら硬直してたら、ある女性からスカウトされたんです。それが後のマネージャーさんで。

事務所に入ってからは、トントン拍子で?

花実

まったくです。当時はツイッターが最先端だったので、とにかく毎日、自分の写真をアップして、事務所の先輩にリツイートしてもらって、ファンを獲得すること!って教わって。とりあえず毎日自撮りの日々でしたね。

最初にきた仕事はなんだったんでしょうか?

花実

撮影会でしたね。私服と水着を交互に着て、集まってくれたファンの方たちに撮ってもらうという。グラビアアイドルとして事務所に入ったので、撮影会はグラビアの登竜門みたいな感じだと思います。

いきなり、知らない人の前で肌を露出して、さらに撮影されることに抵抗はありませんでしたか?

花実

それがまったくなかったんですよね。でも不思議なことに、何年かやっていくうちにちょっと辛くなってきて。撮影中に過呼吸になったこともありました。ファンの方たちのことは心から大好きだし、楽しかったんですけど、なんか調子が悪くなっちゃって……。

そうなってしまったきっかけがあれば教えていただきたいです。

花実

所属していたグループにとても感謝しているし、そのおかげで知名度も少しですが上がりました。だけど、自分は色気とかエロとかとはかけ離れたところにいる、という考えがずっと頭にあって。撮影会では少なからずそういう目で見てもらうことをプロとして意識しなければいけない。だって水着という露出の多い格好を撮っていただくわけですから。本当になりたい自分と、こうならなきゃいけないという自分との差あったことが、一番のきっかけでした。

テレビの中の自分と、普段の自分がかけ離れていく。

花実さんといえば恵比寿マスカッツ、恵比寿マスカッツといえばセクシー女優の方々、というイメージでした。

花実

セクシー女優さんと、タレントさんの割合で言えば半々くらいだったかな。

恵比寿マスカッツは、どのような経緯で入られたんでしょうか?

花実

マネージャーさんが私にバラエティの素養があると思ってくださったみたいで、ちょうどそんなタイミングでマスカッツのオーディションがあったので、「受けてきて」と。ただ、福井県ではテレビ東京は放送されていなかったので、番組自体を知らなかったんです。

男性諸君は、あの番組がはじまったときに歓喜してたと思います。

花実

そうですよね。普段お世話になっている人たちが、地上波で体当たりのお笑いしてるわけですからね。

オーディションはどのようなものだったんですか?

花実

面接官の方が15人くらいいましたかね。自己紹介からはじめるんですけど、私そのとき、事務所の地下アイドルみたいなこともやっていたんです。それをプロフィールに書いていたので「あなたマスカッツのオーディションに来てるけど、すでにアイドルやってるじゃないですか」って真っ先に言われちゃって。「そんな中途半端な気持ちで来られても困ります」って。やっばい、確かにそうだ、どうしよう、どうすればいいんだと思って、そこでもう、言葉に詰まっちゃいました。

花実

オドオドしていたら、すぐに他の応募者さんのターンになったんです。彼女はオペラが得意で、面接官の方もそこに食いついて「『サザエさん』の歌をオペラで歌ってください」というお題が出て、彼女が歌いはじめて。彼女もきっと何が正解かわからないような状況で、ましてや空気も緊迫状態だから泣き始めちゃったんです。それでもオペラを歌うのは止めなかった。それがもう、面接官の方たちに超ハマって。で、面接も終わりかけの頃に「あなたも歌ってみて」と言われて、松田聖子さんを歌ったら「はい、ありがとうございましたー」ってサラっと終了。ほぼ何も話していない、できないまま終わってしまい、絶対落ちたと思って落ち込んでたんですけど、次の日マネージャーさんから「合格した」と連絡が。いまだに、なんで受かったかはわからないですね。

そこからマスカッツを3年間続けられましたが、辞めるに至った経緯はなんだったんでしょうか?

花実

グループを卒業してから、バラエティに出たいと思ってオーディションをいくつか受けましたけど、全然ダメで。グループにいたときって、なにもせずとも自分がおもしろくなれたんです。プロデューサーさんに導かれる感じで。メンバー一人ひとりの声、表情、性格などをじっくり見抜いてくだ さり、それぞれに合ったお笑いを導いてくれるんです。ひとりになったときに、自分全然喋れねーな、って。 余談ですけど、ある番組ではりきっちゃってめちゃくちゃ暴れたことがあって。人が食べているゼリーを、勝手に食べてみたんです。

その時点でおもしろそうなのですが、状況を詳しく教えていただきたいです(笑)。

花実

まず司会者さんがいて、私を含めてグラビアアイドルの子が何人かいる状況です。その中でゼリーをかわいく食べる、という流れがあったんです。ゼリーを食べるグラドルの子にフォーカスがあたる場面なんですけど、まったく出番ではない私が、その子の席まで走っていって、いきなり横からその子のゼリーを食べたんです。もう、地獄ですよ。

血迷ってる感じが伝わります。

花実

完全に血迷ってますね(笑)。なんとか爪痕を残そうとして、それが変な方向に出てしまい......最低ですね、痛すぎる。観てた方に共感性羞恥を与えかねない場面だったんじゃないでしょうか。そういうことが続いて、自信を失っていったわけです。そうなったらもう、暗黒の自分がどんどん出てきて。

ダークゾーンというと?

花実

実は私、中学校の頃不登校だったんです。その頃の自分が出てきちゃったというか。

意外でした。不登校になった理由はなんだったんでしょうか?

花実

特にいじめとかはなかったんです。クラスのみんなとの関係は良好で。なんか、例えば誰と誰が喧嘩したとかって聞くたびに、全部私のせいなんじゃないかとか感じるようになっていて。私が生きてるから全部悪いなーとか(笑)。

花実さんの人気に起因するものなのでしょうか?

花実

まったく関係ないですね(笑)。単純に、考えすぎてたんじゃないですかね。だから不登校になったときも、学校のみんなはびっくりしていたと思います。

そんなダークサイドの部分が、恵比寿マスカッツを脱退されて、出現してきたと。

花実

そうです。もう、ずっと考え過ぎてました。番組の収録って本当に怖いんです(笑)。その頃はまったくうまくいかないし、テレビを観るのも嫌になっていました。嫉妬しちゃったりするし。こういうことってありますか?

たとえば会議なんかでも、自分の発言が何度も却下されたりすると、発言しにくくなったりすると思います。そんな感じでしょうか?

花実

そうです。本当そんな感じで。

そんなときでも、仕事は舞い込んでくるわけですよね?

花実

そうですね。関係者に会うときは常にスイッチを入れているので、超明るいし、毒舌キャラでした。この頃はもう、本当の自分とのギャップをかなり感じていたので、本当に辛くって。けど、明るくて毒舌なのも自分だしとか、もう、いろんな感情がぐるぐるしていた感じでした。

花実

あと、カメラが回っていない時間もめちゃくちゃ大事で。どの業界でもそうだと思うんですけど。マネージャーさんから「誰々さんがいるから話に行ってきて」って言われたり。私が出会った限りでは、タレントさんやアイドルさんってスッと会話しに行けるんですけど、私は正直すごく苦手でした。帰って布団の中で2ちゃんねるのまとめ見たいなって。実際はみんな苦手なのかもしれないで すけど、そんなふうに見えない、見せない人たちを本当に羨ましく思いました。一生懸命、別の自分を作らないといけない状況が辛くなった結果、人のゼリーとかを食べちゃうんです。最低です。

なるほど。それで辞める決心したと。最後の仕事は写真集なんですよね?

花実

そうです。クラウドファンディングでラスト写真集を制作させていただきました。写真集自体、初めてだったのでファースト写真集でもあるんですけどね。なんの実績も残してないのに、自分なんかが作っていいのかなって思いもありました。

心のバランスを保つために描いていた絵。

花実

辞めると決まってから、東京ではもう生きていけないなと思い、地元の福井に帰りました。ひっそり生きていこうと思って。地元に帰ると決心してから本当に住民票を移すまで1ヶ月もかからなかったです。たまに発揮する怖い行動力。でも、福井に来て2週間もしたらまた激しく落ち込んでしまって。本当に帰ってきちゃった、とか、これからこのなにもない自分に何ができるんだろう、とか。中学生時代の引きこもりっぽくなっていたときに、いま働いている古着屋のオーナーさんからお誘いいただいたんです。一緒にお店をやってみないかと。

なるほど。それがいまから1年前くらいですね。いまはじゃあ、このお店で接客をされていると。

花実

週5で店には立っています。最初は買い付けにもいってたんですけど、コロナになってからは行けてないですね。

加えて、イラストも描かれていますよね。いまの肩書きはイラストレーターということになるのでしょうか?

花実

えーっと、そんな頻繁に描いているわけでもないですし、まだイラストレーターとは名乗れないですかね。

イラストはいつから描かれているんですか?

花実

昔から描いていたんですけど、SNSにあげるようになったのは、アイドルグループを卒業するちょっと前くらいからですね。

それまでも、SNSにはアップしないとしても、描かれてはいたんですか?

花実

描いてはいました。全部捨てちゃいましたけどね。描いたらすぐ捨ててました。突然死んだとき見られたら恥ずかしいんで。思い返すと、辛くなると絵を描いていましたね。中学校の引きこもっていたときもだし、芸能界にいたときも。それで心のバランスを保っていた気がします。

本業にしていく気持ちもあるのでしょうか?

花実

イラストレーターになる! みたいな感じではないですよね。楽しくて可愛いものが描けたらうれしい♪ みたいなノリです。その絵を好きって思ってくださった方からご依頼をいただいて、その延長でいまはコラボ商品を作らせてもらったりしています。

花実さんの絵は、すべて女性がモチーフでセクシーなものですが、理由を聞かせていただけますか?

花実

特に深い意味はなくて。ただ可愛いからって理由だけで、女の子を描いています。よくグラビアアイドルさんの画像やセクシー女優さんの画像を見て、そのポーズを描いたりするんですけど、うん、可愛い。

でも花実さんの絵は、花実さんにしか描けないものだと感じます。

花実

自分だけの絵を描けなきゃと思っていた時期に、ある漫画家さんが「目で決まる」って言ってたんです。そこから目だけをいっぱい描いてみて、いまの目に辿りついて。そこから自分らしい絵になってきたのかなと。今後はイラストの仕事も、いただけるならしていきたいし、来春からお店のオリジナルブランドもはじめるんで、そこでも描くことはしていくと思います。だから、自分が何屋かはわからないですけど、描くことが中心にあったらいいなとは思っています。

花実

それと、嘘日記と夢記憶漫画っていうのも書いていて(花実さんのインスタグラムを参照)、絵とはあまり関係ないですけど、まー見てください。

芸能界にいらしたときは自分とのギャップに苦しんでいましたけど、いまは苦しくないですか?

花実

素でいられるからこそ、すごく不安になるときもあります。接客しているときに、めっちゃ素 が出ちゃっているときとか、落ち込みます。「あー、きっと今日は、お客さんに楽しんでもらえなかったなー」って。逆に、バラエティ番組のときの自分が降臨するときもあります。そのときは「よし、 次もあのお客さんまた来てくれるな! 楽勝だぜ!」って一喜したり。

芸能生活で培ったものも、いまに活かされているわけですね。

花実

超勉強になったと思います。ツッコむとかボケるとかの重要さ。

ということは、接客中に花実さんがボケることもあるんでしょうか?

花実

全然あります。

あまり想像できないですね。

花実

私ボケなんですけどね?

ARTIST

花実

1994年生まれ。福井県出身。定時制の高校を卒業し上京、2014年に芸能界デビュー。翌年の2015年より、セクシー女優やグラビアアイドル、モデルが所属するユニット「恵比寿マスカッツ」に所属する。2020年11月に芸能界引退を発表。現在は都内の古着屋兼カフェで店長を務めるかたわら、イラストレーターとしても活動する。

Instagram:@natsume_hanami(https://www.instagram.com/natsume_hanami/

PROJECT TOP

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次の東京を創造していく表現者にスポットを当てたインタビューコンテンツ。