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E-WAX

唯我独学で作品を生み出すアーティスト、E-WAXの心構え。

2021.02.05

Photo:Shuhei Kojima / Text:Shinri Kobayashi

キャリア形成のためのハウツー本が山ほど刷られ、何々になるためにはこれをすべしといった言説が幅をきかせている。本来であれば道は一つではないはずだが、もっともらしい正解ばかりが喧伝され、人々はそれに飛びつく。ある種の、画一化が進んでいるというわけだ。 アーティスト・E-WAXは、大学で専門を選択したわけでもなければ、幼少期に英才教育を受けたわけでもない。アートは独学し、必要な視点や感覚をニューヨークで習得し、師にものづくりの姿勢と気概を学んだ。自分が成功すれば、業界や世の中の常識に対するアンチテーゼにもなりうるというE-WAXのその真意とは? 

プロサッカー選手になれないという挫折。

グラフィックと写真、今はどういうバランスなんですか?

E-WAX

写真メインですね。割合でいえば、写真が8、ペインティングが2くらいです。

具体的にどんなものを撮っているんでしょうか?

E-WAX

特定のサブジェクトはないですけど、自転車でブラブラして、アンテナに引っかかったもの、例えば違和感を感じたものを撮ります。これは、ニューヨークに行ってから始めたスタイルですね。ニューヨークでは、街を歩くと引っかかるものがよくあったので。あとは、ルールとして、物は絶対に動かさない、触らない。そこにある物をそのまま撮っていきます。

幼少期はロンドンに住んでいらしたとか。

E-WAX

3歳(1992年)くらいから8年間、ロンドンに住んでました。自分ではわからないんですけど、当時のストリートアート、音楽、ファッションの影響を感じるという人もいますね。自分がロンドンにいたのは、もろ90年代で、親父周りのMajor Force、Mo Waxとかロンドンのファッション、アートシーンを間近で見てました。

当時からアート志向があったんですか?

E-WAX

全然! ずっとサッカー選手になりたかったんです。ロンドンにいた頃から、90年代の一番かっこよかった時代のアーセナルが好きでした。実際に、サッカーしかないぞってくらい、サッカーに集中して、プロを目指してました。

どの時点でサッカーの道を諦めたんですか?

E-WAX

21歳くらいでJ2のクラブで練習生をやっていたんですが、入る前は天狗になっていた部分もあったんでしょうね。入ったら、J2でこれか! と。上には上がいるということを知りました。上手い下手よりも、サッカーへの意識が違いましたね。僕は社会人リーグに入っていたんですが、週3くらいしか練習してなくて、J2の選手たちとどんどん差が開いていきました。21歳という年齢もあって、ちょっとこれは無理だなと諦めました。ぐずぐずと続けるよりはスパッとやめた方がいいと思ったんです。

それは大きな挫折でしたね。

E-WAX

それまでサッカーしかやってこなかったので、正直何をしていいかわかりませんでした。特に絵や写真も勉強したことはなかったですし。当時、時間はあったので、入院していた母にずっと付き添っていたんですが、その時ノートに絵...というか模様みたいなものを描いていたら、母に、続けてみれば? と言われて、絵を描くことにしました。それで、親父(DJ K.U.D.O.)に相談したら、周りで一番写真やアートとかに詳しいのは、宮下(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.デザイナー)さんだから会いに行きなって電話番号を教えてもらったんです。電話をかけて、作品を持って青山の一室に会いに行ってみたら、作品を気に入ってくれて。お会いした宮下さんは、とにかくかっこいいっていう印象が強く残ってます。そんなこんなで、22歳から4年間くらい、「grocerystore.」(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.の旗艦店)で働いて、作品作りが忙しい時は、夜通し絵を描いたりという生活をしていました。

アーティストの骨格を作ったニューヨーク。

宮下さんの影響は大きいですか?

E-WAX

そうですね。ファッション、アート、音楽、映画もそうですが、なによりものづくりの姿勢を学びました。真面目な方で、本当にストイックなんです。ただ、思いっきり影響を受けましたが、同時にそれをどう崩すかっていうことも考えていました。例えばファッションだと、宮下さんそのまんまよりも、自分らしさをどこかで入れるかということです。

「grocerystore.」で勤めた後に、ニューヨークに行かれますよね?

E-WAX

それも宮下さんからの、絵や写真をやるなら、やっぱりアメリカだろうっていうアドバイスも大きいですね。あとは、昔住んでいたロンドンだと、知り合いもいて頼っちゃうから、それよりも全然知らないところに行こうと思いました。

ニューヨークに住んだ経験は、大きいですか?

E-WAX

そうですね。東京にいたらダメになるなと思ってました。というのも、周りに影響力が強い人がいっぱいいるんです。また、その人たちが言うことも説得力があるから、自分はイエスマンというか、意見をなかなか言えない。だから、一旦区切りをつけて、ニューヨークへ行って、自分の力でやるという体験ができて本当によかった。だからこその今だと思ってます。

アーティストの骨格みたいなものですね。

E-WAX

向こうでは、絵を描くか、写真を撮るか、毎日作品と向き合っていました。そういうアーティストがニューヨークにはたくさんいたんです。C.S.C.(ChinaTown Soccer Club)という、元VICEの人と写真家のピーター・サザーランドが結成した草サッカークラブに、縁があって所属していたんですけど、チームメイトは、イラストレーターやデザイナー、洋服屋、アーティストとか。当たり前のように、毎日何かを作ったり、表現していた彼らが、身近にいたのは刺激的でした。上を目指そうじゃなくて、個人でやっていこうぜとか、ニューヨークに住むってストレスフルだから、週2、3回朝サッカーをやって1日を気持ちよくスタートしようぜとか、休憩中に話したりして、みんなと生まれた交流は大きかったですね。コロナで母国に帰った人も多いけど、今でもSNSで繋がってます。

なるほど。では、ニューヨークで交流を持った人以外で、何か影響を受けたものはありますか?

E-WAX

中平卓馬さんは、生き方、作品も含めてかなり影響を受けています。特に、写真はアートじゃなくて、記録であるべきだ、記録に徹するべきだという写真に対する視点。もちろん、考えはかっこいいんですが、写真自体がかっこいいのが大前提ですけど。

Joseph Szaboは、ダイナソーJr.『Green Mind』の女の子がタバコを吸っているジャケットが有名な写真家です。実は、この人は学校の先生で、The Rolling Stonesファンの生徒からライブにいく足がないってことで生徒をライブに連れて行くんです。この写真集「Rolling Stones Fans」では、The Rolling Stonesのメンバーは一枚も写ってなくて、ファンばかり撮ってるのがユニークですね。

TOM WOODSの本(中央)は、ロンドンのクラブとかを収めたストリートスナップ写真集です。ニューヨーク時代に所属していたサッカーのチームメイトがトムウッズの友達でペインターなんですが、彼がこの本のデザインをやっているんです。

どんなジャンルであろうと、自分に寄せて撮る。

2020年の8月にニューヨークから帰国したのはどうしてですか?

E-WAX

コロナで色々なものがストップしちゃって、先が見えないんで帰ってきました。東京に戻ってきて、今はInstagramを通じて、自分の写真を手刷りした、Tシャツやスウェットを売っているんですが、DMで連絡もらったら、届けられる範囲の人には、自転車で直接配りに行って、ちょっと話したりします。会ったことのない人が連絡をくれて会うのが面白いんです。全然予期してないファッションの人とか、予期してない状況にも遭遇しますから。

面白いデリバリーの仕方ですね。

E-WAX

好きなものを作って、直接届ける。その道中に引っかかったものを写真に収める...そういう一連のつながりが大事だなと。今の時代は、注文したら、明日に届くっていうスピード感でもありますし。ニューヨークでの5年間は、ほぼ毎日絵を描くか、写真を撮ってました。その目線と感覚で、東京を撮れたらいいなと思っています。実際、今やれている感覚があるんです。

これから先はどういう展望をお持ちですか?

E-WAX

ニューヨークを訪れることはあっても、住むことはないでしょうね。ここ日本で、個展や、ファッションが好きなんでファッション誌をやっていきたいなと思ってます。僕みたいに、誰かの下についたわけでもなく、独学で、ストリートから出る人間がいてもいいんじゃないか、できたらいいなと。誰かを批判するつもりはないんですけど、東京だと、有名なカメラマンの下につくとか、ちゃんと大学に行って学ぶとかが、その後のキャリアに大きく影響する気がします。海外だと、もっとフラットというか、作品の良し悪しだけを見てくれる。例えば、ニューヨークでは、どんな人種であろうと、いいものはいいっていう評価です。だからこそ、評価されないものは良くないってこと。大学で学んだわけでもなく、誰かのアシスタントについたこともない僕が、この業界でやれるっていうことを証明したいと思います。

社会に風穴をあけるような、なかなか大変なチャレンジですね。

E-WAX

そのためには、許されるのであれば、メディアとか全部に営業してまわりたいくらいです。たとえギャル雑誌がオファーしてくれたとしても、ちゃんと自分に寄せて撮ることさえできれば、問題ないので。誰かの下で学ぶことも大事ではあるけれど、せっかく人はそれぞれ違う目を持っているんで、独学でまずは始めちゃった方が影響を受けずに作品が作れるんじゃないですかね。

「BE AT TOKYO」というプロジェクトは、東京が軸になっています。E-WAXさんにとって、東京という街は、作品にどういう影響を与えてますか?

E-WAX

ニューヨークに行って、東京の良さ、日本の良さを初めて知ったんですよね。同時に違和感みたいなものも。例えば喫煙所スペースって、たくさんの人が押し込められて、煙を吸って吐いてっていう、異様で不思議な光景じゃないですか。ずっと東京にいたら、この違和感は、気づけなかったことだと思いますね。

PHOTOGRAPHER, PAINTER

E-WAX

Major Forceの創設者であり、サウンドクリエーターのK.U.D.Oを父に持つ。3歳から8年間ロンドンで幼少期を過ごす。21歳まで続けていたサッカーをやめ、絵を書き始める。22歳で宮下貴裕と再会し上京。TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.のショップマネージャーを勤め、その時写真とも出会う。東京、福岡などで個展を開催し、27歳からニューヨークで本格的にアーティスト活動をはじめる。
Instagram : e_waxstudio(https://www.instagram.com/e_waxstudio/

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次の東京を創造していく表現者にスポットを当てたインタビューコンテンツ。