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YUKI MIZOBUCHI

ovgo B.A.K.E.R 溝渕由樹のポップでスイートなクッキーで切り込む、ビターな環境問題。

2021.04.16

Photo:Hiroyuki Takenouchi / Text:Shinri Kobayashi

西欧諸国に比べて、ベジタリアンには暮らしづらいと言われる日本。それでも、東京を皮切りに食の多様化は進み、ベジタリアン向けのレストランやメニューが増えてきています。その中のひとつ、ovgo B.A.K.E.Rは、まさに新しい世代のベジタリアンフードブランド。展開するアメリカンヴィーガン、グルテンフリークッキーは、動物性原材料を一切使用せず、できる限り国産やオーガニックの食材を使っています。では、なぜあえてヴィーガンにこだわるのでしょうか。肉好きな人は関係ない? いやいや、環境問題とも表裏一体と言われる食について、その言葉に耳を傾けてみましょう。

大好きな食とやるべきフェアトレード。

ovgo B.A.K.E.Rを始める前の経歴について教えてください。

溝渕

子供の頃からお菓子が大好きで、中学の時に、ニューヨークへ年一回連れて行ってもらっていたんですが、ネットや本を駆使して、現地のお菓子のお店を徹底的にリサーチして回っていました。その後、大学時代にロンドンに留学。アフリカ支援などをしている周りの人から刺激を受けて、自分もフェアトレードにまつわる仕事を目指すようになりました。これは性格的にも上下関係や搾取の構造が嫌いだったのもあると思います。

すでに今のお仕事の基盤のようなものができてますね。

溝渕

食べ物とフェアトレードに両方関係するものといえば、コーヒー豆はその典型なんです。途上国から取ってきたものを、先進国で飲む・食べるというもの。それで、コーヒーを扱っている三井物産に入りました。元々、人権に興味があって、大学時代は法学部だったことから、法務部に配属されて、個別というより、全社に関わる仕事でした。だから、やりたかったサプライチェーン(製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの全体の一連の流れ)や作り手の思いを汲みとるような仕事は担当できなかったんです。その代わりではないんですが、当時から夜な夜なお菓子を作っては、同僚に食べてさせてましたね(笑)。

なるほど(笑)。

溝渕

コーヒーや農家に関わる仕事をしたいと思い、三井物産で3年働いた後、DEAN & DELUCAに転職しました。ただ、環境問題に一番関心があったわけではないんです。ちなみに、日本でヴィーガンといえば、宗教や動物愛護というイメージが強いと思うし、実際そうではあるんですが、実はヴィーガンは環境問題とも非常に関係が深いんです。例えば牛を飼うために、土地も必要で、餌もすごい量が必要なので、環境問題を悪化させているという話があります。

Netflixの『Cowspiracy』でも描かれていた問題ですね。

溝渕

そうです。それで、三井物産を辞めた時点で、将来何かやろうと思っていたので、その転職前の2ヶ月くらいは、ネタ探しのためにアメリカ、ブラジル、アルゼンチンを一人旅しました。その時に、アメリカで食べたヴィーガンクッキーが美味しくて、これだ!と。DEAN & DELUCAで働き始めた日の夜に、今一緒にovgo B.A.K.E.Rをやっている松井ちゃんに、ヴィーガンフードで何かやろうと話したのを覚えています。

その当時も含めて、影響を与えたものとして、いろいろな本を持参してもらいました。

溝渕

(左下から反時計回りに)まずは『「松之助」平野顕子が教える ニューヨーク とっておきのスイーツ・ガイド『です。タイトル通り、平野顕子さんがニューヨークのお菓子の店をたくさん紹介してくれるんですが、この本を頼りに、いろいろな店を回りました。中でもOLを脱サラしてクッキー屋を始めたという、ルヴァンベーカリーというお店が一番好きですね。次は『安藤忠雄 仕事をつくる』。私は高校生までは建築家が夢でした。安藤さんの独学で建築家になられたところ、海外で活躍されているところ、喧嘩っぱやいところまで含めて好きですね(笑)。遠く及ばないとはいえ、私も学校が嫌いな一匹狼だったので、そんなところも自分と重ねていました。次は『漱石文明論集』。夏目漱石とか文学全般が好きなんですが、漱石も小説家になる前に、外務省に入り、海外留学をするんですが、そこで自己本位という言葉に出合って、霧が晴れて文学を始めるんです。やりたいことと仕事が乖離してモヤモヤしていた物産時代に読んで、いわば辞めることを後押ししてくれた本です。

では、残り半分の本について、教えてください。

溝渕

(右上から反時計回りに)アリス・ウォータースの自叙伝『COMING TO MY SENSES』。私は人に興味があって、伝記や自叙伝が大好きなんですが、彼女も自分の道をなかなか見つけられなかった人です。大学を出て、ヒッピー運動に参加後、フランスに渡ります。モンテッソーリ教育の勉強をして、自身も保育園の先生になるんですが、父兄と衝突して結局クビに。その後、ロウフードやスローフードの母とまで言われるんですが、途中までガタガタしていても、収まるところに収まるんだなと。次は、クリスティーナ・トシの『all about cake』。彼女は、ミルクバーというジャンクなお菓子屋を経営しているんですが、そのポップなお菓子に、ovgo B.A.K.E.Rもインスピレーションを受けています。アメリカで、ミルクバーのクッキングのレッスンを受けて驚いたんですが、20台くらいオーブンが並んでいて、参加するみんながクリスティーナのトレードマークのバンダナを巻くんです。それで、歌手のPinkみたいな人が、大音量の音楽をかけながら料理を作っていくという...。最後は、ovgo B.A.K.E.Rの見本となるお店のひとつで、LAのシルバーレイクにある、Sqirlのレシピ本です。ジャムから人気が出たお店なんですが、いわゆるレシピ本と違って、レシピもあれば、お店の背景を紹介した文章もある。あとは一般のお客さんが載っていたりと、アートブックのようなデザインがすごくいいんです。

ありがとうございます。ovgo B.A.K.E.Rに話を戻すと、クッキーに絞ったのはどうしてですか?

溝渕

クッキーが好きだし、物産時代から作っていたのもあります。最初は、副業を前提に考えていました。クッキーは10分で焼けるし、日持ちもするので、副業としてやるのに向いていたんです。

何種類くらいの味があるんですか? あと、原材料のこだわりについても教えてください。

溝渕

常時20種類に、その時の味をプラスで、合計30種くらいです。原材料は、動物もそうですが、環境に気遣ったもので、国内でも手に入りやすい材料を使っています。あくまで日常でも取り入れやすいもので作るのは意識していて、豆乳やココナッツミルク、米油とかで作っています。

先ほどの話にも出てきた、ヴィーガンは環境問題とつながっているのは知らない人も多いと思うんです。溝渕さん自身が、食と環境問題が繋がったのは、アメリカでの経験でしたよね。

溝渕

アメリカに行った時に、周りのヴィーガンの話を聞いたり、本屋やNetflixで勉強したり、今一緒にovgo B.A.K.E.Rをやっているゆりちゃんが以前いたLUSHで詳しく聞いたりしました。そうやって、食べ物とプラントベース(植物由来)がつながっていったんです。

ヴィーガンへのアレルギーをなくすことが大事。

左は、ovgo B.A.K.E.Rを一緒に立ち上げた松井さん。

ラフォーレ原宿の出店されているovgo B.A.K.E.Rにお邪魔しましたが、たくさんのお客さんに正直驚きました。

溝渕

お店がヴィーガンの人たちの情報交換の場にもなっています。ヴィーガンの人たちは絶対数が少ないから、みんな探し出して来てくれるんです。ちなみに、ovgo B.A.K.E.Rは、環境にいいとも、ヘルシーとも、バターと卵を使わないクッキーとも謳っていません。私自身、好きなクッキーを入り口にして、ヴィーガンや環境について学んだように、まずは味が美味しいことが重要。とはいえ、ただ美味しくて、中身がいいだけでもダメで、価格やパッケージのデザインも大切だと思ってます。

確かに、ヴィーガンに対して、イメージだけで苦手意識が出てしまう人もいそうですね。

溝渕

むしろヴィーガンじゃない人たちのヴィーガンへのアレルギーをなくすことが大事だと思います。だから、インスタでもネットでも、押し付けがましいことや難しいことは何も書いていません。でも、ただのお菓子として消費されちゃうのも嫌で、以前は色々と書いていたんですけど、それだと引いちゃう。私の話し方くらいだと難しくならないみたいなので、お店での交流はとても重要なんです。

お店でも若い子をモデルに使った、ポップなビジュアルがありましたね。

溝渕

ヴィーガン=ロハスのイメージがあまりに強いので、金髪の子がパーカを着て出ているビジュアルを作ったりと、逆張りしようと。結局取り組んでいる問題のスケールが大きいので、完璧でなくても一人でも多くの人が参加できるような表現にしています。ヴィーガンというのは、食べ物のこだわりというより、すべてのものにやさしいライフスタイルです。そしてそれを実践していくと、様々な事柄や問題がつながっていることに気がつくはず。自分が食べているものはもちろんのこと、洋服がどこから来たのか、ごみはどこへ行くのか。 環境のことを思って行動し始めると、必ずその環境下で暮らす他の人たちや動物たちのことを考えることは避けられず、生活や行動すべてに行き渡っていくと思います。

ヴィーガンは、ライフスタイル全般にまつわるというのは確かにそうですね。

溝渕

食べ物は買う回数が圧倒的に多いので、まず食べ物をプラントベースにしてみるのは、ライフスタイルを変えるのにちょうどいいと思います。ラフォーレ原宿に出店したのも、若い子のライフスタイルに取り入れやすいというのが理由のひとつとしてあって。何より、ライフスタイルとして何かを取り入れる事例を考えてみると、そのほとんどが上の世代のから下に伝わっていくのではなくて、下の世代から上の世代に伝わっていくものじゃないですか。例えば、インスタとかタピオカも、まずは下の世代が熱中して、上に広がりますよね。だからラフォーレみたいに、ジェネレーションZが来るところでやりたかったし、そういう価格設定にしているつもりです。

やはり若い世代は受け止め方も柔軟ですか?

溝渕

そうですね。日本のヴィーガン市場に対して、バイアスが薄いんじゃないでしょうか。小さい頃から、ネットを使って海外のニュースも知っているし、国語も社会も英語などでも温暖化問題を取り上げることが多い世代。お客さんも最初は、味を美味しいと言ってくれて、その後環境問題などを説明すると、絶対その方がいいですよねと言ってくれます。やはり、まずはハードルをどれだけ下げるかですね。お客さんの中でもSDGsに興味がある人は増えているので、東京も変わってきているなと感じます。とはいえ、食の大量生産や激安の裏に作っている人がいるということに気づいていない人もいます。そんな人たちと、難しいことを頑張っている人との間に立って、環境問題とまではいかずとも、興味を持ってもらいたいですね。何も考えない人が少しでも少なくなってくれたらいいなと。

目指すは、ニューヨーク凱旋!?

4月23日から、ラフォーレ原宿6Fにオープンする「BE AT STUDIO HARAJUKU」に出店することも決まっています。

溝渕

食におけるヴィーガンの波に飲み込まれたくないという気持ちがあるので、多ジャンルの人と一緒にやれるのはうれしいです。例えば、おかげさまでクッキーを取り扱ってくれるコーヒーショップや紹介してくれるモデルの方も増えてきているんですが、どこでも誰でもいいわけじゃないんです。商売を考えたら、卸先はできるだけ多い方がいいとはいえ、最初こそこだわりが大切だし、BE AT TOKYOのスペースでは、いろいろな人と接点を持てるのが楽しみです。

近々、店舗も完成するそうですね。

溝渕

2021年5月15日に小伝馬町にお店がオープンします。それに合わせて5月14日までクラウドファンディングに挑戦しているので、ぜひチェックしてみてください。

5年後は、どういうプランを持っていますか?

溝渕

3年後には、日本にプラントベースの文化を根付かせて、5年後には、ニューヨークに店を持ちたいと思います。抹茶や漫画という、西欧から見た日本ではなく、プラントベースの美味しいお菓子として、その場に馴染んだものにしたいですね。そのためにも、渡辺直美さんのYouTubeを毎日見て、元気を注入しています(笑)。

ovgo B.A.K.E.R

溝渕由樹

大学卒業後、いくつか会社を経て、自身も含めたミレニアル世代4名による、ovgo B.A.K.E.Rを2019年に設立。ラフォーレ原宿に出店するなど、新世代のオリジナルクッキーとして支持を受ける。2021年5月15日に小伝馬町にお店をオープン。これに合わせて、現在クラウドファンディング(5月14日まで)に挑戦中!
Instagram:@ovgo_official(https://www.instagram.com/ovgo_official/

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次の東京を創造していく表現者にスポットを当てたインタビューコンテンツ。