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堀口麻由美『カルチャー徒然日記』

第十一回:追悼 ジャン=リュック・ゴダール

2022.10.05

Text & Photo:Mayumi Horiguchi

ゴダールと「名画座」と映画愛

映画『Made In USA』が90年代後半(たしか)に上映されたときのパンフ&各映画を撮影中のゴダールのショット(※私物の本のページを撮影)

ジャン=リュック・ゴダールが死んでしまった。正確に言うと、自ら「安楽死」を選び、逝ってしまった。2022年9月13日、スイスの自宅で91歳で死去......その喪失感は、彼の映画にヤラれて人生拗らせたものにとっては、かなり大きい。

ゴダールのおかげでヌーヴェルヴァーグとかを好きになったことは間違いないし、ゴダール映画があったから、アンナ・カリーナ的フレンチ・シックな服が好きになったことは確実。そういう人はたくさんいるだろうから、そのあたりを踏まえた追悼文を書くのはあえてやめといて、「名画座」を中心に、この文章を書いてみることにする。

いまだに強い人気を誇るゴダール映画、『気狂いピエロ』のパンフを<新橋古本市>で発見

サブスクに文句を言う人とかけっこう多いが、私にとっては「夢のような時代が到来した」としか言いようがない。なぜなら、物心ついた時から(?!)漫画や子供用テレビ番組などを愛していた身としては、「とにかくいっぱい、観たい、読みたい!」と思っていたからだ。のちに音楽に目覚めた時には、当然のごとく「とにかく聴きたい!」という思いを強くし、ラジオ番組で流れる曲を録音したり、貸レコード屋が出てきてからは、とにかく借りた。レコードに関しては、物欲もあるっちゃあったんで、本当は全部買ってもよかったのだが、なんせ子供。お小遣いに限りがあったから、何を買うかを選び、それ以外は借りるしかなかった。でも漫画とか音楽はまだマシだった。なぜなら「置いてある場所」に行けば漫画はタダで読めたし、音楽は借りたものをダビングして、自分のものにできたから。問題は「映画」だった。

レンタルビデオ屋ができてからは音楽同様観れるようになったし、テレビで放送された映画をビデオテープに録画できるようになった映画だったが、そうなる前は大変だった。ディープな昭和時代、映画は「映画館」に行くか、"テレビの洋画劇場的な番組を偶然に見るか、時間をきっちり調べて鑑賞する"という方法でしか、観れなかった。流行りの映画とかハリウッド映画ならまだチャンスは多かったが、ゴダールみたいな芸術性の高いものは、なかなか観るのが大変だった。特別上映をする「名画座」に行くしかなかった。だから、2011年に廃刊となった総合エンタテイメント情報誌『ぴあ』などをこまめにチェックし、観たい芸術映画が上映されている名画座に行きまくった! 

ポスター各種。左上:『気狂いピエロ』Pierrot Le Fou(1965)・左下:『メイド・イン・USA』Made In USA(1966)・右:『女と男のいる舗道』Vivre Sa Vie(1962)※私物の本のページを撮影

というわけで、さんざん名画座に行きまくったりした挙句、ある意味、まともな人生からズレていったMY LIFEだったのだが、あの頃に名画座に行っていて本当によかったと、今は思う。マニアックなラインナップと、独特のアーティーな雰囲気は、現存する「ミニシアター」とは全然違う。「消えた昭和」とリンクし、煌びやかな思い出として、自らのうちに蓄積されている。

『勝手にしやがれ』や『気狂いピエロ』など、ある意味ゴダール映画の定番的なものをまず観てファンになった身としては、『中国女』とか「政治の時代」の頃の映画を観たくてしょうがなかったのだが、レンタルビデオ屋が始まる前だとビデオで観るという方法もとれなかったので、名画座だけが頼りだった。遠い記憶では、早稲田にあった名画座――靴を脱いで入った記憶があるんで、おそらく「ACTミニ・シアター」――とかで、そのあたりの時代のゴダール映画を観た。観れたときは、本当に嬉しくて「生きててよかったぁ~!!」とまで思ったほどだ。タランティーノ監督のチームは、「カット! やり直し!」の時に "Because we love making movies!" と叫ぶが、タランティーノが抱いているような映画愛を私に植え付けたのは、ゴダールと名画座なのかもしれない。いや、そうなのだ、きっと。

前述したように、聴きまくれるし観まくれるから、音楽や映画の配信サーヴィスは大好きだし今後も愛用するが、それとは別に、<フィルム映画を名画座で観た時代>というものを愛している。これはただ単に、完璧な「郷愁」ゆえだが、そんな郷愁にかられる思いそのものを、今後も大切にしてゆきたいと思う。

ゴダール映画は、私にとっては名画座と深く結びついた、「古き良き時代への郷愁」のための道標ともいえる存在だ。スチル写真を見るたびに、とても簡単に70年代や80年代に脳内トリップできる。あの頃抱いた夢や理想を、いい歳こいた今になっても、いまだに追求したいという思いにさせてくれる。

さようならゴダール。あなたみたいな素晴らしい映画人を失ってしまって、世界と私は、とても悲しい。

ゴダール好きの部屋には高打率で並んでた本『ゴダールの全映画』(芳賀書店)※私物を撮影

【ジャン=リュック・ゴダール Jean-Luc Godard: Profile】
ジャン=リュック・ゴダール(1930年12月3日 - 2022年9月13日)は仏の映画監督(フランス・スイス二重国籍)。ヌーヴェルヴァーグを代表する監督のひとり。代表作に『気狂いピエロ 』他、多数。 2018年には最新監督作『イメージの本』が、カンヌ国際映画祭で史上初のスペシャル・パルムドールを受賞。

<関連サイト>
https://www.allcinema.net/person/395
http://www.kinenote.com/main/public/cinema/person.aspx?person_id=138550


次回は11月2日、毎月第1水曜日更新です。お楽しみに!

堀口麻由美

ほりぐち・まゆみ。Jill of all Trades 〈Producer / Editor / Writer / PR / Translator etc. 〉『IN THE CITY』編集長。雑誌『米国音楽』共同創刊&発行人。The Drops初代Vo.

Instagram:@mayumi_horigucci

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TOKYO CULTUART by BEAMSが2017年まで展開していた文芸カルチャー誌『IN THE CITY』。短篇小説やエッセイ、詩など、「文字による芸術」と、それに呼応した写真やイラストレーションなどを掲載したもので、これはそのWEB版になります。