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片岡義男『ドーナツを聴く』

第二十三回:一曲だからこそシングル盤だったのです

2022.11.09

Text & Photo:Yoshio Kataoka

ビームスが発行する文芸カルチャー誌 IN THE CITY で好評だった連載が復活。片岡義男が買って、撮って、考えた「ドーナツ盤(=7インチ・シングル)」との付き合いかた

シングル盤は円形だ。シングル盤であろうとなかろうと、すべて円形なのではないか。一本の糸のようにつながった情報をおなじ手段で取り出し、微細な信号を増幅したり加工するにあたって、情報源は円形にしておくのがもっとも都合がいいからだろう。PCに内蔵されているというHDもまだ円形のままだ。このおなじ円形のまま、シングル盤はその時代をまっとうした。シングル盤の時代は三十数年続いたと思う。円形であることに関して、シングル盤はまったく変化なかった。再生してみるとよくわかることだが、シングル盤はすぐに終わる。忙しいのだ。再生装置にほとんど張りついていなければならない。

「一曲だから良かったのです。歌謡曲を考えてみてください。あの歌手のあの曲、ときめてレコード店へ急いだじゃないですか。アメリカのポップスもおなじことです。LPとシングル盤とでは、まずその価格に雲泥の差がありました。シングル盤なら買えたのです。なにか新しいロックを、と求めている人は、『プラウド・メアリー』を買います。ピンク・フロイドも一曲なら手が出るのです」

友人に僕は戒められた。LPが一枚を通して聴き通すべき構成された作品となったのは、ザ・ビートルズの『ラバー・ソウル』からだ。それまでのLPは、ヒットした曲を適当につなぎ、隙間をオリジナルとカヴァーで埋めていく、というスタイルだったではないか。そのとおりだ。シングル盤によって送り出される作品が、ごちゃ混ぜなのも、一曲を選び出すほうの都合に合わせた結果だ、と友人は言う。選ぶ対象がさまざまでしかも数は多いほうがいいにきまっているからだ。

次回は12月14日、毎月第2水曜日更新です。お楽しみに!

片岡義男

かたおか・よしお。作家、写真家。1960年代より活躍。『スローなブギにしてくれ』『ぼくはプレスリーが大好き』『ロンサム・カウボーイ』『日本語の外へ』など著作多数。近著に短編小説集『これでいくほかないのよ』(亜紀書房)がある。

https://kataokayoshio.com

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TOKYO CULTUART by BEAMSが2017年まで展開していた文芸カルチャー誌『IN THE CITY』。短篇小説やエッセイ、詩など、「文字による芸術」と、それに呼応した写真やイラストレーションなどを掲載したもので、これはそのWEB版になります。