SCROLL DOWN

IN THE CITY DIGITAL

堀口麻由美『カルチャー徒然日記』

第十五回:『ザット ’90s ショー』

2023.02.01

Text:Mayumi Horiguchi

90年代編登場にビックリ&堪能!! ※(写真上)1970年代の米ウィスコンシンを舞台にしたシットコム『ザット '70s ショー』メインキャストの面々。

Netflixシリーズ『ザット '90s ショー』独占配信中/90年代のフォアマン一家はこんな感じ。

『ザット ’90s ショー』(原題:That '90s Show)が2023年1月19日からNetflixで配信開始されたんで、さっそく観た。"相変わらず" のノリで、エンジョイしまくった!

本作は『ザット ’70s ショー』(原題:That '70s Show)の続編的スピンオフ作品だ。そこでまずは、『’70s~』の話からスタートしよう。『’70s~』は米のシットコム。キャストたちのちょっとおばかな青春が、ほっこりとした気分にさせてくれる人気シリーズ。FOXテレビで’98年から放送スタートし2006年に終了したのだが、8シーズン続いた。筆者はこの番組を日本のFOXチャンネルで観た。見始めたのはまったくの偶然だったのだが、いつの間にかファンになっていた。なぜなら、1話30分程度のエピソードには、そこらじゅうに、恐ろしいほどに「ロック」がいっぱい詰まっていたのだ!!!

まず、テーマ曲「イン・ザ・ストリート」からしてヤバかった! 各エピソードの冒頭に流れるこの曲は、パワー・ポップといえばこのバンド的な存在である、アレックス・チルトン率いるバンド、ビッグ・スターの曲だ。シーズン1ではトッド・グリフィンが演奏するカヴァーが主題歌として使われていたのだが、のちにチープ・トリックによるヴァージョンに変わり、以後はこれが使われ続けた。わかる人にはわかるはず! そう、「70年代米ポップ・ロック」を象徴する曲とバンドが、すでにテーマ曲の段階から引用されているんである。そのメタ構造ぶりには感嘆せざるを得ない。

Netflixシリーズ『ザット '90s ショー』独占配信中/こちらがトミー・チョン。チーチ・マリンと2人で「チーチ&チョン」というコメディ・チームを組み70年後半から大活躍。ストリートブランドのTシャツの絵柄なんかにもなってます。

加えて、同番組には、ゲストとしてコメディ映画『チーチ&チョン』シリーズで有名なトミー・チョンが出たり、70年代に大ヒットしたアクションドラマ『チャーリーズ・エンジェル』のジュリー・ロジャース役で知られるタニア・ロバーツが出たりしていて、激’70s感を高めていた。『’70s~』に出演していたメインキャストの成り上がりぶり(?)にもビックリだ。ケルソー役のアシュトン・カッチャーとジャッキー役のミラ・クニスは有名になっただけじゃなくて、現実世界で結婚までしちゃったし、変な留学生フェズ役でお笑い担当だったウィルマー・バルデラマは、ドラマ『NCISネイビー犯罪捜査班』のトーレス捜査官役でお馴染みになってしまった。ちなみにこの3人と、オリジナルキャストであるエリック役のトファー・グレイス&ドナ役のローラ・プリポンの5人はもちろん、『’70s~』に出てきたキャストの面々が、当時の役柄のまま歳をとった形で何人も『'90s~』に登場してくるところもたまらない! ええ、トミー・チョンは出てます、もちろん! あと、90年代にめちゃくちゃ流行り、社会現象にもなった青春ドラマ、“ビバヒル”こと『ビバリーヒルズ高校/青春白書』(原題:Beverly Hills, 90210)で、学内のラジオ局のDJを目指すデビッド役で有名なブライアン・オースティン・グリーンが、「デビッド」として出演してます。まぁ、スティーヴン役ダニー・マスターソンは性的暴行で起訴されて、すっかり業界から消えてしまったので出てこないけど......。皮肉屋のキャラで結構好きだったから残念だけど、仕方ないよね。

Netflixシリーズ『ザット '90s ショー』独占配信中/『'90s~』でのフェズ。国には帰らず、美容師として成功していた!

Netflixシリーズ『ザット '90s ショー』独占配信中/ヘタレぶりも『スター・ウォーズ』好きも相変わらずな『'90s~』でのエリック。

Netflixシリーズ『ザット '90s ショー』独占配信中/クールなノリをキープしつつ、母親としての貫禄も出てきた『'90s~』でのドナ。

ーーといった番組のスピンオフ作が『'90s~』だ。今回の時代設定は95年。両親と共にシカゴに住んでいるエリックとドナの娘、レイア・フォアマンが、ウィスコンシン州ポイント・プレイスにある祖父母キティ&レッドの家に、ひと夏のあいだ滞在するところから、ストーリーが始まる。ちなみにこの祖父母を演じているのはカートウッド・スミス(レッド役)とデブラ・ジョー・ラップ(キティ役)。当然のごとくオリジナルキャストで、『’70s~』でもめっちゃいい味出してた。そんな2人は、本作でも昔っぽいアメリカ頑固親父感と可愛いおばあちゃん感を爆裂させてて、相変わらず、いい感じ。ちなみにエリックとドナの娘の名前が「レイア」なのは、エリックが『スター・ウォーズ』ファンだからなのは、もう言わなくてもわかりますよね?!  そしてそのレイアを中心に、『’70s~』の時とまったく同じように、複数のティーンエイジャーがキティ&レッドの家の地下室に集い、そこでくだらない会話で盛り上がったり、ハッパをキメながらダラダラしたり、いちゃついたり、泣いたり笑ったりドタバタしたりするのだ。楽しい!! ちなみにエリック&ドナの娘も、ケルソー&ジャッキーの息子も、「あの2人からなら、こんな子が生まれるだろう」って感じのルックスと性格なのは、さすがである。

Netflixシリーズ『ザット '90s ショー』独占配信中/『’70s~』の時からあまり変わっていないキティ&レッド。

Netflixシリーズ『ザット '90s ショー』独占配信中/アシュトン・カッチャーが演じた、イケメン&女たらしでちょっとおばかなケルソーの息子、ジェイ(メイス・コロネル)とキティ&レッドの孫でエリックとドナの娘、レイア(キャリー・ハヴェルダ)。

そして、どんな感じで「ロック」が反映されているのかと楽しみにしていたのだが、やはりその点も抜かりなかった。『’90s ~』で音楽を担当しているのは、スマッシング・パンプキンズのジェームス・イハだった! 本作でも、前作と同じテーマ曲が使われているのだが、イハはザ・ドナスのブレット・アンダーソンをボーカルに迎え、ちょっと90年代パンク風新ヴァージョンを作り上げた。そして各エピソードでは、90年代の楽曲と、70年代の楽曲がかかる。レイアが仲良くなる隣の家の女の子、グウェン(アシュリー・アウフダーハイデ)は、90年代にロックが好きだった片田舎のティーンエイジャーっぽいファッションやメイク、ノリが特徴的なのだが、彼女の部屋の壁には、「ライオット・ガール(Riot Grrrl)」という言葉が大きくフィーチャーされている。知らない人のために簡単に説明しておくと、ライオット・ガールとは、90年代初頭に米ワシントン州オリンピアを中心にスタートした、パンク音楽、フェミニズム、政治を組み合わせたサブカルチャー・ムーヴメントだ。「そう、90年代のアメリカって、そうやって女性バンドや音楽を愛する女性たちが、ムーヴメントを盛り上げた時代だった」と、その壁の言葉を見て思い出した。そんなところも、さりげなく素晴らしい。グウェンの部屋にはそれ以外にも、マフスやソニック・ユースをはじめとするバンドのポスターが貼られまくっている。90年代は、メジャーでもインディーでも、まだ「バンド・サウンド」に勢いがあったことも、それを見て思い出した。

Netflixシリーズ『ザット '90s ショー』独占配信中/これがそのグウェンの部屋だ!

Netflixシリーズ『ザット '90s ショー』独占配信中/米のバンド、ゴーゴーズ(The Go-Go's)のポスターも発見。グウェンは女性ロックバンドがお気に入りみたい。

『’70s~』も『’90s ~』も、そんな感じで、その時代を生きた人々にとっては、当時を思い出させてくれるノスタルジックな作りになっているのだが、それ以外の人でも、当然楽しめる。事実、筆者は70年代には子供だったが『’70s~』を楽しく観た。『ストレンジャー・シングス 未知の世界』もそうだが、ドラマの時代背景となった当時の政治・社会情勢やカルチャーを、同時代を生きた人間は追体験して楽しめるし、若い世代は、全くの未知のものとして新鮮な気持ちで楽しめるんである。

そんなわけで、このドラマ、音楽好きにも超おすすめだし、アメリカという国に興味ある人が観て損はない作品だと思います。

最後に、『’90s ~』でかかる曲の全リストも、わかった範囲で掲載しておくので、音楽好きはこちらもチェック! さすが、90年代と70年代「のみ」から選曲されてます。音楽好きなら、このソングリストから「時代感」を嗅ぎ取らずにはいられないはず。

ああ、あっという間に全10エピソードを見終わってしまった......。シーズン2も、製作されるといいな。

Netflixシリーズ『ザット '90s ショー』独占配信中/フォアマン家の地下室でのティーンエイジャー御一行。右から、ネイトの恋人で勉強好きのニッキー(サム・モレロス)、グウェンの異父兄でジェイの親友ネイト(マックスウェル・ドノヴァン)、グウェン、レイア、ジェイ、そしてゲイでおもしろキャラのオジー(レイン・ドイ)。

<That ’90s Show soundtrack>
■第1話  '90sへようこそ
「グルーヴ・イズ・イン・ザ・ハート」Groove Is in the Hear - Deee-Lite(90年)
「ユー・オウタ・ノウ」You Oughta Know - Alanis Morissette(95年)
「サッド・トゥモロー」Sad Tomorrow - The Muffs(95年)

■第2話 フリー・レイア
「テル・ミー・サムシング・グッド」Tell Me Something Good - Rufus (feat. Chaka Khan)(74年)

■第3話 リップクリーム
「ディス・イズ・ハウ・ウィー・ドゥ・イット」This Is How We Do It - Montell Jordan(95年)
「シュープ」Shoop - Salt-N-Pepa(93年)

■第4話 レイブ
楽曲ナシ

■第5話 小さなステップ
「ヒア・カムズ・ザ・ホットステッパー」Here Comes the Hotstepper (Heartical Mix) - Ini Kamoze(94年)

■第6話 ハッピーバースデー
「メイク・ラヴ・トゥ・ユー」I’ll Make Love to You - Boyz II Men(94年)
「スロウ・ライド」Slow Ride - Foghat(75年)
「ザ・ワールド・アイ・ノウ」The World I Know - Collective Soul(95年)

■第7話 彼氏初日
楽曲ナシ

■第8話 夏の嵐
「ノー・レイン」No Rain - Blind Melon(93年)

■第9話 卑劣なダブルブッキング
「カウボーイズ・フロム・ヘル」Cowboys from Hell - Pantera(90年)

■第10話 キッズ・イン・アメリカ
「アイ・ウィッシュ」I Wish - Skee-Lo(95年)
「キッズ・イン・アメリカ」Kids in America - The Muffs(95年)


『ザット '90s ショー』
原題:That '90s Show
Netflix(ネットフリックス)で独占配信中
2023年 / アメリカ
公式サイト:https://www.netflix.com/jp/title/81288370


次回は3月1日、毎月第1水曜日更新です。お楽しみに!

堀口麻由美

ほりぐち・まゆみ。Jill of all Trades 〈Producer / Editor / Writer / PR / Translator etc. 〉『IN THE CITY』編集長。雑誌『米国音楽』共同創刊&発行人。The Drops初代Vo.

Instagram:@mayumi_horigucci

PROJECT TOP

IN THE CITY DIGITAL

TOKYO CULTUART by BEAMSが2017年まで展開していた文芸カルチャー誌『IN THE CITY』。短篇小説やエッセイ、詩など、「文字による芸術」と、それに呼応した写真やイラストレーションなどを掲載したもので、これはそのWEB版になります。