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IN THE CITY DIGITAL

片岡義男『ドーナツを聴く』

第三十回:ここにシングル盤が十枚ある

2023.06.14

Text & Photo:Yoshio Kataoka

ビームスが発行する文芸カルチャー誌 IN THE CITY で好評だった連載が復活。片岡義男が買って、撮って、考えた「ドーナツ盤(=7インチ・シングル)」との付き合いかた

ここにある洋楽を全部ください、というような買いかたをした。ここにある洋楽とは、シングル盤を入れてあったいくつかの段ボール箱を指した。このまま送りますよ、と店主は言った。中古レコード店の店頭にあったままのシングル盤が、段ボール箱を含んで、そのまま僕の自宅へ移動した。僕による取捨選択はいっさいおこなっていない。店にあったとおりの順番で、店にあったままの風情で、洋楽のシングル盤が僕のところにある。

そのシングル盤から十枚をかぞえて、抜き出してみた。ここにある十枚のシングル盤だ。この十枚を続けて聴くのはたいそうせわしない。一曲はすぐに終わる。片面に一曲だから、一曲が終わったなら、すぐに裏返したり、次のシングル盤に取り替えなければいけない。

ずっとシングル盤を聴いてきて、初めてLPを購入して自宅のターンテーブルに載せて再生した人の気持ちは、どんなだったか。LPの片面には五曲から六曲が収録してあるのが標準だ。六曲と一曲。LPはずいぶんのんびりしたものに、その人は感じたのではないか。

シングル盤にはB面があった。タイトル曲の面の裏はB面と呼ばれた。B面に収録してある曲の題名を列挙してみよう。『OK牧場の決闘』『白い恋人たち』『ウォーク・ライト・イン』、回転数をLPとおなじにして片面に二曲ずつとした、いわゆるEPが一枚だけあった。『真夏の太陽』と題したこのレコードからは、B面の二曲を書いておこう。『太陽の中の恋』と『太陽は燃えている』の二曲だ。『ツイスト・アンド・シャウト』『エマの面影』『一年前の恋』『バルボー・ブルー』『さらば夏の日』『いつもの朝』という次第だ。

B面扱い、という言葉があった。A面にするには出来がいまいちだが、しかたない、これをB面にしておこう、などと使われた。

片岡義男

かたおか・よしお。作家、写真家。1960年代より活躍。『スローなブギにしてくれ』『ぼくはプレスリーが大好き』『ロンサム・カウボーイ』『日本語の外へ』など著作多数。近著に『僕は珈琲』(光文社)がある。
https://kataokayoshio.com

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TOKYO CULTUART by BEAMSが2017年まで展開していた文芸カルチャー誌『IN THE CITY』。短篇小説やエッセイ、詩など、「文字による芸術」と、それに呼応した写真やイラストレーションなどを掲載したもので、これはそのWEB版になります。