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片岡義男『ドーナツを聴く』

第十三回:化粧品と引き換えのシングル盤

2022.01.12

Text & Photo:Yoshio Kataoka

ビームスが発行する文芸カルチャー誌 IN THE CITY で好評だった連載が復活。片岡義男が買って、撮って、考えた「ドーナツ盤(=7インチ・シングル)」との付き合いかた

「揺れる、まなざし」がA面で、その裏のB面は「しじま」だそうだ。どちらも小椋佳が歌い、作詞作曲もしている。ごく普通の市販のシングル盤のようだが「非売品」と印刷してある。資生堂、というデザインされた文字とマークが、どこかに必ずある。レコード店にはならぶことなく、どこかで資生堂の化粧品を何円か買えば、このシングル盤がもらえた、というシステムだったか、と想像する。一九七六年の作品だ。ここに集めた八枚のシングル盤のどれにも、資生堂の文字とマークがある。シングル盤一枚の製作にかかわる費用の大半を資生堂が負担したのだろうか。

「ナツコの夏」は化粧品の販売シーズンごとのキャッチ・コピーだ。それに合わせて歌が作られた。一九七九年のもので、歌と演奏は世良公則&ツイストで、歌の題名は「燃えろいい女」となっている。

一九七八年の「君のひとみは10000ボルト」はダブル・ジャケットなので、写真もそのように撮った。ふたりの女性はおなじ人なのだろうか。A面が「君のひとみは10000ボルト」で、B面は「故郷には帰りたくない」という歌が収録してある。どちらの曲も堀内孝雄が歌い作曲している。

「おかえりなさい秋のテーマ」は一九八〇年のキャッチ・コピーだ。歌の題名は「おかえりなさい秋のテーマ ~絹のシャツを着た女~」といい、裏にあるのは「サン・サルヴァドール」という題名の歌だ。どちらも加藤和彦が歌い作曲している。

一九八〇年の「魅惑・シェイプアップ」はタケカワ・ユキヒデの作曲でA面は内山田洋とクール・ファイブが歌っている。B面はおなじ曲のインストルメンタルだ。レコードには「楽団演奏」と記載されている。この言いかたを僕はここで初めて知った。

「劇的な、劇的な、春です。レッド」は例によってコピーだ。映画「ベルサイユのばら」のメインテーマを作曲したのはミシェル・ルグランで、メリー・クレイトンが歌っている。B面はおなじ曲のインストルメンタルだ。インストゥルメンタル、とレコードには記載してある。

一九八一年の「ニートカラー」はふたたびコピーで、収録してある歌の題名は「ニートな午後3時」といい、松原みきという歌手が歌っている。当然のこととしてB面があるわけで、その題名はTwinkle Twinkle Starlightというものだ。

「微笑の法則」は一九七九年、そして「輝け!ナツコSUN」は一九八〇年のものだ。「微笑の法則」のコピーは長い。写真で読めるだろうか。柳ジョージ&レイニー・ウッドの歌で、「スマイル・オン・ミー」という副題がついている。B面にあるのは「FENCEの向こうのアメリカ」だ。

「輝け!ナツコSUN」もコピーだ。歌はA面が「蜃気楼」で、B面は「朝焼けの街角」という歌で、どちらもクリスタル・キングが歌っている。このようなシングル盤が化粧品の売り上げに多少とも寄与した時があったのだろうか。


次回は2月9日、毎月第2水曜日更新です。お楽しみに!

片岡義男

かたおか・よしお。作家、写真家。1960年代より活躍。『スローなブギにしてくれ』『ぼくはプレスリーが大好き』『ロンサム・カウボーイ』『日本語の外へ』など著作多数。近著に『いつも来る女の人』『言葉の人生』(どちらも左右社)がある。

https://kataokayoshio.com

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TOKYO CULTUART by BEAMSが2017年まで展開していた文芸カルチャー誌『IN THE CITY』。短篇小説やエッセイ、詩など、「文字による芸術」と、それに呼応した写真やイラストレーションなどを掲載したもので、これはそのWEB版になります。