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片岡義男『ドーナツを聴く』

第十五回:こまどり姉妹が最初だった

2022.03.09

Text & Photo:Yoshio Kataoka

ビームスが発行する文芸カルチャー誌 IN THE CITY で好評だった連載が復活。片岡義男が買って、撮って、考えた「ドーナツ盤(=7インチ・シングル)」との付き合いかた

 自分が所有しているシングル盤は、年代順にならべて、いくつかの段ボール箱のなかにある。前回の続きとして、六二年から六三年までのものを中心に、十枚のシングル盤を選び出した。男性の歌手は除外し、女性の歌手だけにしてみた。それ以外に意図した部分はなにもなかった。偶然にこうなった。

 女性の歌手だけにしてみた理由はただひとつ、ある時点までの自分にとって歌謡曲の歌手は男性でも女性でも、歌謡曲を歌う人としておなじであり、この人は男性だ、この歌手は女性だ、という区分けをまったくしてはいなかったからだ。

 ところが、歌謡曲の歌手は、男性と女性がはっきりと区別されていて、それ以外だと、たとえば今回の十枚のなかで二度登場している、男性ばかり六人いるマヒナ・スターズというグループのようになる。

 偶然にこうなった、と僕はさきほど書いた。こまどり姉妹が最初にあることは、偶然の産物だ。そして僕が歌謡曲の歌い手たちを、男性と女性、そしてそれ以外に分けるに至った最初の契機が、こまどり姉妹だった。ここでは一九六二年の『おけさ渡り鳥』があるが、僕にとって重要なこまどり姉妹は、その前の年、一九六一年の『そーらん渡り鳥』だ。ここから僕は、歌謡曲の歌い手たちを、女性と男性、そしてそれ以外の三つに、分けてとらえるようになった。なぜそうなったかについては、別なところですでに書いた。

 こまどり姉妹。畠山みどり。吉永小百合。島倉千代子。三沢あけみ。西田佐知子。弘田三枝子。朝丘雪路。今回の十枚のシングル盤の、女性歌手たちだ。畠山と吉永がそれぞれ二度、登場している。女性歌手はもっといる。雪村いづみ。松山恵子。織井茂子。藤本二三代。ザ・ピーナッツ。ペギー葉山。美空ひばり。松尾和子。越路吹雪。森山加代子。五月みどり。渡辺マリ。一九五九年から一九六一年にかけて、なんらかのレコードをヒットさせた女性たちだ。

 今回の十枚をなんとなく見ていて僕が思いついたのは、歌謡曲短編集、とも呼び得る短編小説を、既存の歌謡曲の題名を借りて、書いてみる、という試みだ。今回の十枚、二十曲の題名のうち、これならなんとか書けそうだ、と僕が思うのは、『ちょうど時間となりました』という題名だ。この題名で短編小説を書いてみようか。


次回は4月13日、毎月第2水曜日更新です。お楽しみに!

片岡義男

かたおか・よしお。作家、写真家。1960年代より活躍。『スローなブギにしてくれ』『ぼくはプレスリーが大好き』『ロンサム・カウボーイ』『日本語の外へ』など著作多数。近著に『いつも来る女の人』『言葉の人生』(どちらも左右社)がある。

https://kataokayoshio.com

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TOKYO CULTUART by BEAMSが2017年まで展開していた文芸カルチャー誌『IN THE CITY』。短篇小説やエッセイ、詩など、「文字による芸術」と、それに呼応した写真やイラストレーションなどを掲載したもので、これはそのWEB版になります。