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堀口麻由美『カルチャー徒然日記』

第六回:散ってしまった花びらまでもが愛おしい

2022.05.04

Text & Photo:Mayumi Horiguchi

Sakura My Love

夏なのかと思わせられるほど暑い日が続くいま、思い出す。今年の桜のことだ。

コロナ禍で当然のごとく起こってしまった悲劇のひとつに、「花見およびその関連イベントの自粛」がある。桜の名所は日本全国数多くあるが、そのどこでもイベントの中止が相次ぎ、今年もいまだに復活していないものは、いっぱいあったはずだ。

コロナ前、筆者は毎年行われる、東宝スタジオの仙川沿いの桜ライトアップを楽しみにしていた。世田谷区成城1丁目の仙川遊歩道一ノ橋から三ノ橋にかけて並んだ桜が、プロの手により設置された機材によって、神々しいまでに照らし出されるのだが、その美しさは感涙モノ。さすが映画の専門家が手がけているだけあって、そのライトアップは見事としか言いようがない。汚いものはすべて覆い隠され、ライトアップの煌めきにより、桜の美しさは一層増す。きっと映画俳優さんもこんな感じで、より美しく、より輝かしくライトアップされていたんだなぁ、なんて考えるだけで、花見もより楽しくなったものだ。そんな東宝スタジオの桜ライトアップだが、やはり今年も中止だった。残念この上ない。

まぁ中止といっても、毎年同様、桜は綺麗に咲いていたし、映画『七人の侍』の巨大壁画と、東宝スタジオメインゲート前のゴジラ像を、ウィズ桜で見るのはオツなものだった。

さて、この機会にと調べてみたのだが、高さ2メートルのゴジラのブロンズ像と『七人の侍』の壁画が出来上がったのは、2007年のこと。同年8月9日、東京・東宝スタジオ内に新オフィスセンターとメインゲートが完成し、それにあわせてこの二つもお披露目となったそうだ。ちなみにこのゴジラは1991年の『ゴジラVSキングギドラ』のゴジラで、ゴジラ像としては日本最大のものなんだとか。普通に前でポーズとって写真撮りまくったりしていたが、基になってる映画のタイトルとか、いまのいままで知らなかったわ、すいませんw  そして『七人の侍』は、言わずと知れた巨匠・黒澤明の代表作のひとつ。この壁画は、激有名なスチール写真を基に、東京ディズニーシーの壁画部門のディレクターを務めた塙雅夫氏が描いたもので、縦12.4メートル、横26.6メートルという超ビッグサイズ。この壁画を見るたびに「ああ、日本にはゴジラとこの映画があるんだ、それだけで外国の友達に自慢できるわ~」と思わせてくれる。

そんなわけで、ライトアップがなくても、東宝スタジオの仙川沿いの桜を今年も楽しめちゃったわけだが、だんだん散っていく桜を日々眺めているのも、これまた楽しいひとときだった。桜の花びらの色が、見るたびに徐々に変化し、だんだんと緑色になっていく様を楽しむのも、これまた風流だなぁと感じることが多々あったのだが、これはライトアップやイベントがなくても、日本人が桜を楽しんできた昔から変わらず感じていたことなのではないか。そんなふうに、過去へのタイムスリップ感的な感情をも体験できたのは、ある意味、貴重なことなのかも。完全に花びらが落ちきって、道路がピンク色に変わっている様を見るのも、また素敵だったしね。

新型コロナウイルス感染症の影響でイベントが中止されるなんてことは、今後はもう起こって欲しくはないが、こうして、普段なら見逃してしまっていた物事に思いを馳せるチャンスを与えてくれたのが、今年の桜の季節なのであった。


次回は6月1日、毎月第1水曜日更新です。お楽しみに!

堀口麻由美

ほりぐち・まゆみ。Jill of all Trades 〈Producer / Editor / Writer / PR / Translator etc. 〉『IN THE CITY』編集長。雑誌『米国音楽』共同創刊&発行人。The Drops初代Vo.

Instagram:@mayumi_horigucci

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TOKYO CULTUART by BEAMSが2017年まで展開していた文芸カルチャー誌『IN THE CITY』。短篇小説やエッセイ、詩など、「文字による芸術」と、それに呼応した写真やイラストレーションなどを掲載したもので、これはそのWEB版になります。