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堀口麻由美『カルチャー徒然日記』

第九回:海外ドラマ『セックス・ピストルズ』

2022.08.03

Text & Photo:Mayumi Horiguchi

少なくとも私というピストルズ・ファンは好きでした、コレ

パーティー時に筆者が撮影した写真家デニス・モリスの作品集『DENNIS MORRIS: THE BOLLOCKS A PHOTO ESSAY OF THE SEX PISTOLS』&誌面掲載写真。

正直、このドラマ、観るまでは不安しかなかった。映画評論サイト『ロッテントマト』ではフレッシュが50%台と超ビミョーだし、実在したバンドメンバーを俳優が演じる場合、どうしようもない結果が出ることが多すぎるし、マーティン・スコセッシとミック・ジャガーが組んで製作したドラマ『VINYL -ヴァイナル-』とか超つまんなかったから! だけど、意外なことに、これは良かった。自分でもびっくりだ。

『Pistol』という原題の本作は、セックス・ピストルズのギタリスト、スティーヴ・ジョーンズが2018年に発表した回想録『Lonely Boy: Tales from a Sex Pistol』を原作とする米ケーブルテレビ局FXのリミテッド・ドラマ・シリーズ。ちなみにこの本の日本語版『ロンリー・ボーイ ア・セックス・ピストル・ストーリー』(川田倫代・訳)は、2022年2月にイースト・プレスから発売されている。

FXといえば、モトリー・クルーのトミー・リーと、「プレイボーイ」で人気を博したモデル兼俳優のパメラ・アンダーソンのセックステープ流出をテーマにしたドラマ『パム&トミー』を製作しており、これが意外なことに面白かったので、俳優の選び方とか上手いんだと思う。『パム&トミー』の場合、パメラを『ダウントン・アビー』のリリー・ジェームズが、トミーをマーベル映画『キャプテン・アメリカ』シリーズなどのウィンター・ソルジャー/バッキー・バーンズ役のセバスチャン・スタンが演じており、その演技力には唸らせられたが、本作もまず、役者がとても良かった。
ドラマを観る前のイメージ画像を見た時には、「え、マジ?!」とか思ったりもしたが、映画『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ役を演じたラミ・マレックと同様、顔はたいして似ていなくても、動きなどでよく似せている。実際に、ジョニー・ロットンを演じたアンソン・ブーンは、ロットンの身体的特徴を研究し、他の俳優達もみな、音楽のレッスンも受けたという。その甲斐あってなのか、バンドの演奏シーンは、観るに堪えないものとかには、全然なっていない。また、ストーリーの構成的にも、セックス・ピストルズというバンドについてだけではなく、彼らが生きた、その当時の英国の社会背景も垣間見える作りとなっている。そんなところがある種の肝となっているので、ドラマとして楽しめるのだ。

メンバーやドラマ登場人物の関連本。筆者が私物を撮影。

ニュアンス的には、とても上等な<再現ドラマ>的な出来栄えになっている。昭和の時代、深夜の人気番組に『テレビ三面記事 ウィークエンダー』というものがあり、いつも楽しく観ていたのだが、この番組内ではつねに「再現フィルム」が流されていた。このフィルム、再現するにあたって、顔が似ていることは重要ではなかったが、わりと毎回楽しめた(まぁ、似せるのがムリだったということもあるだろうが)。本作も、ルックスが似ているかという点に関しては、特にそんな感じだ。とにかく、なによりも「演技力」が重要なのだということを、本作を観て痛感した。例えばマルコム・マクラーレンを演じたトーマス・ブロディ=サングスターとか、超良かった! 顔はあんまり似ていないが、Netflixのチェスドラマ『クイーンズ・ギャンビット』で人々を魅了したその演技力で、「稀代のペテン師」とも言われるマルコムを演じきっている。

本作にもバンバン登場している「パンク・アイコン」として名高いジョーダン・ムーニー(本名パメラ・ルーク)の本『Defying Gravity: Jordan's Story』。筆者が私物を撮影。ジョーダンはマルコムとヴィヴィアンが経営していたブティック「SEX」の元従業員で、70s UKパンクの「顔」。残念なことに2022年4月3日(現地時間)、胆管がんのため66歳で死去。R.I.P.

まぁ、ピストルズの熱狂的なファンとしては、「観るのが怖い」「視聴後、怒りに震えてしまわないだろうか?」といった不安を抱えてしまうのはムリもない話だ。実際このドラマには、事実とは異なる部分や、事実がフィクション化している部分が多々ある。ひとつ例を挙げると、裏の主役的に登場するプリテンダーズのクリッシー・ハインドに関しては、様々な「事実」が変わっている。クリッシー・ハインドは、実際にマルコムとヴィヴィアン・ウェストウッドの店『SEX』で働いていたし、ピストルズのメンバーとビザのために結婚しかけたりしているのだが、ドラマ用に話が作り変えられている。特に、ジョーンズと彼女の関係性については、かなり誇張されている。ジョーンズが『ニューヨーク・タイムズ』紙に「彼女はドラマを見てショックを受けていた」と語っているぐらいだ。また、クリッシー・ハインド以外の登場人物についても「ファクト・チェック」的に違う部分は色々あるのだが、長くなるのでここでは割愛しておく。

※その辺の詳しい説明はこちら↓のRolling Stoneのサイトに書かれているので、興味ある方はチェックしてみて欲しい。
■英語オリジナル
https://www.rollingstone.com/music/music-features/fact-checking-sex-pistols-pistol-1361253/

■日本語版
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/38001

『ロンリー・ボーイ ア・セックス・ピストル・ストーリー』(スティーヴ・ジョーンズ 著 / 川田倫代 翻訳・イースト・プレス)内掲載の写真を筆者が撮影。

本作は『トレインスポッティング』のダニー・ボイルが監督・製作総指揮を務めたもの。しかし企画段階からジョン・ライドンは忌み嫌い「今までで一番失礼なクソ映画」と呼び、楽曲提供を拒否していた。だが、曲の使用については“多数決”で決定できると事前に合意しているという主張のもと、スティーヴ・ジョーンズとポール・クックから訴えられ、ライドンが敗訴。そして無事(?)、曲が使えることになったという経緯があるのだが、ドラマ内で使用される曲の選び方もまた良い。このへんも、好感度が上がった原因かも!?

1. 60年代NYCでファクトリーとかやってたせいか、ドラマ内でヴィヴィアン・ウェストウッドにディスられているアンディ・ウォーホル。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのルー・リードと「ファクトリー・ガール」イーディ・セジウィックと。2. ピストルズのスタジオ・アルバム『勝手にしやがれ!!』 - Never Mind the Bollocks, Here's the Sex Pistols (1977年) ※筆者が私物を撮影

最後に、全6話でかかる曲の全リストも掲載しておくので、音楽好きはこちらもチェック! 英国カルチャー好きなら、このソングリストからも感じてくるモノがあるはず。

そんなわけで、このドラマ、観ておいて損はない。でも個人的に、日本版のタイトルは『セックス・ピストルズ』ではなく、原作どおりの『ピストル』か、ジョーンズの自伝に沿って『ロンリー・ボーイ』とかの方があっていた、とは強く思います。

<Pistol Soundtrack: Every song in the series>
■第1話 トラック1:ザ・クロック・オブ・インビジビリティー
[Pistol Track 1: The Cloak of Invisibility]
「月世界の白昼夢」Moonage Daydream – David Bowie
「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」Dance To The Music – Sly & The Family Stone
「ゲット・イット・オン」Bang A Gong (Get It On) – T.Rex
「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」Je t’aime… moi non plus – Jane Birkin & Serge Gainsbourg
「歌は恋人」I’ve Got The Music In Me – The Kiki Dee Band
「ビッグ・スペンダー」Big Spender – Shirley Bassey
「フー・アー・ユー」Who Are You – The Who
「ドック・オブ・ベイ」(Sittin’ On) the Dock of the Bay – Otis Redding
「イッツ・ケイパー・タイム」It’s Caper Time (The Self Preservation Society) – Quincy Jones
「スターマン」Starman – David Bowie
「ある晴れた日に」Un bel dì, vedremo – Maria Callas
「シルバー・マシン」Silver Machine – Hawkwind
「あなたがここにいてほしい」Wish You Were Here – Pink Floyd
「マイ・ボーイ・ロリポップ」My Boy Lollipop – Millie

■第2話 トラック2:ロットン
[Pistol Track 2: Rotten]
「恋と涙の17才」You Don’t Own Me - Lesley Gore
「エイティーン」I’m Eighteen - Alice Cooper
「ジープスター」Jeepster - T.Rex
「アメリカの祈り」An American Trilogy - Elvis Presley
「オール・オブ・ザ・ナイト」All Day and All of the Night - The Kinks
「ノー・ファン」No Fun - The Stooges
「ロードランナー」Roadrunner - The Modern Lovers
「レック・ア・バディ」Wreck a Buddy - The Soul Sisters
「ロング・エム・ボヨ」Wrong ’Em Boyo - The Rulers
「シャング・ア・ラング」Shang-A-Lang - Bay City Rollers
※↑日本語では「ベイ・シティ・ローラーズのテーマ」ないし「恋のロックン・ロール」として知られる。
「ピルズ」Pills - New York Dolls
「アイム・ア・レイジー・ソッド」I’m a Lazy Sod - Sex Pistols
「リコレクション」Recollection - Rick Wakeman & The English Rock Ensemble

■第3話 トラック3:ボディーズ
[Pistol Track 3: Bodies]
「はるかなる想い」When I Need You - Leo Sayer
「サブスティテュート」Substitute - Sex Pistols
「ゼイ・セイ・アイム・ディファレント」They Say I'm Different - Betty Davis
「ロード・ランナー」Road Runner - Bo Diddley
「ファック・ジス・ファック・ザット」F**k This F**k That - DeadBeatVillain
「アナーキー・イン・ザ・UK」Anarchy in the UK - Sex Pistols
「アイ・キャント・スタンド・ザ・レイン」I Can’t Stand the Rain - Tina Turner
「お前は売女」Bodies - Sex Pistols
「ナイト・ドクター」Night Doctor - The Upsetters

■第4話 トラック4:プリティー・ベーイカント
[Pistol Track 4: Pretty Vaaaycunt]
「アナーキー・イン・ザ・UK」Anarchy in the UK - Sex Pistols
「セント・ ジェームス病院」St James Infirmary Blues - Uncertain origin
「プリティ・ヴェイカント」Pretty Vacant - Sex Pistols
「ブギー・ナイツ」Boogie Nights - Heatwave
「怒りの日」Problems - Sex Pistol
「サテライト」Satellite - Sex Pistols
「パブロ・ピカソ」Pablo Picasso - The Modern Lovers
「エックス・オフェンダー」X Offender - Blondie
「ミルク・アンド・ハニー」Milk and Honey - Lizzard
「拝啓EMI殿」EMI - Sex Pistols
「エヴァー・フォール・イン・ラヴ」Ever Fallen in Love - Buzzcocks

■第5話 トラック5:ナンシー&シド
[Pistol Track 5: Nancy & Sid]
「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」God Save The Queen - Sex Pistols
「サブミッション」Submission - Sex Pistols
「リ‐メイク/リ‐モデル」Re-Make/Re-Model - Roxy Music
「アナーキー・イン・ザ・UK 」Anarchy in the UK - Sex Pistols
「ホテル・カリフォルニア」Hotel California - Eagles
「愛しのキッズ」Kid - The Pretenders

■第6話 トラック6:フー・キルド・バンビ?
[Pistol Track 6: Winterland]
「マディ・ウォーター」I Washed My Hands in Muddy Water - Elvis Presley
「ライヤー」Liar - Sex Pistols
「007(シャンティ・タウン)」007 (Shanty Town) - Desmond Dekker & The Aces
「ニューヨーク」New York - Sex Pistols
「さらばベルリンの陽」Holidays In The Sun - Sex Pistols
「アナーキー・イン・ザ・UK 」Anarchy in the UK - Sex Pistols
「ノー・ファン」No Fun - Sex Pistols
「ノー・ニード・ハンズ」You Need Hands - Max Bygraves
「恋のブラス・イン・ポケット」Brass in Pocket - The Pretenders
「マイ・ウェイ」My Way - Sex Pistols
「分かってたまるか」No Feeling - Sex Pistols

『セックス・ピストルズ』
原題:Pistol
Disney+(ディズニープラス)「スター」で独占配信中
監督:ダニー・ボイル
脚本:クレイグ・ピアース
出演:トビー・ウォレス / ジェイコブ・スレイター / アンソン・ブーン / クリスチャン・リース / ルイス・パートリッジ他
2022年 / アメリカ / イギリス
FX
https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/pistol/4FicnX2KnT0V


次回は9月7日、毎月第1水曜日更新です。お楽しみに!

堀口麻由美

ほりぐち・まゆみ。Jill of all Trades 〈Producer / Editor / Writer / PR / Translator etc. 〉『IN THE CITY』編集長。雑誌『米国音楽』共同創刊&発行人。The Drops初代Vo.

Instagram:@mayumi_horigucci

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TOKYO CULTUART by BEAMSが2017年まで展開していた文芸カルチャー誌『IN THE CITY』。短篇小説やエッセイ、詩など、「文字による芸術」と、それに呼応した写真やイラストレーションなどを掲載したもので、これはそのWEB版になります。