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TOKYO LOCALS

杉並区/SUGINAMI

杉並ニューオールド探訪

2021.06.27

Text:Jian

阿佐ヶ谷とはなんぞや②」

さても腹も膨れた昼下がり、大陸では情け容赦ないことを「六月の太陽」に喩えると聞くが、まさしく今日の日差しは洒落にならない。キャップの下からは何か煮えた匂いがする。早々に退散したいところではあるが、街の象徴「パールセンター」に寄らずには帰れまい。

戦後、脇をゆく「中杉通り」の敷設に併せて、都内初の歩行者専用道(=歩行者天国)に指定されたこの商店街。今に至るまで地域の生活全般を担っており、よそでは駅ビルでまとめて済ませる雑事も、ここでは一軒一軒はしごする必要がある。されどその甲斐あってか、往来は人々の息づかいをそのままに映し出し、阿佐ヶ谷ならではのゆかしい人臭さが醸し出されている。あの荻窪も、ルミネやタウンセブンが建つ前はこうだったのだろうかと思えば、なんとも虚しいではないか。

生活全般を担うと書いたが、種々の専門店が並ぶ他、国籍問わず、あらゆるジャンルのグルメにも事欠かない。なかでも特筆すべきは和菓子屋の多さだろう。先にスタミナ丼なんて食べておいてなんだが、この頃洋菓子の油っこさがあまり好かず、もっぱら和菓子派な自分にしてみれば、願ってもない幸運。文字通り棚からぼた餅である。

家庭消費が前提のためか、贈答用ありきのデパ地下よりは値段も優しく、足の早い生菓子が豊富なのも嬉しい。右に左に目移りしながら気がつくとアーケードの突き当りに。そこにこぢんまりとあったのが「福吉」である。

奥を覗くと工場も見える。先日小江戸に出かけた折、抹茶菓子を手に取ると、生産者の欄には京都の文字が。その前の鎌倉では、あろうことか我が故郷岡山の銘菓が、さも地元の老舗ですと言わんばかりに振る舞っていた。ご当地グルメの皮をかぶった優良誤認(?)にうんざりしていただけに、「生産者の顔が見える〜」というフレーズの妙に感じ入る。

食後のデザートがてら、小手調べも兼ねてわらび餅をいただいたが、これがまた絶品。写真を撮るのも忘れて食べきってしまった。お土産にわらび餅をもうひとつと、連れにいちご大福を。ちなみに後日伺って、またまたわらび餅をいただいた。単に「うまい」なんて書くと、どうしても陳腐な感じがぬぐい切れない。もちろん非常に良心的な値付けのおかげでもあるが、家計の危機に及んでなおリピートしている自分こそが「福吉」の味を担保しているとは思うまいか?

文字数だけならここまでたかだか1,000字だが、その裏では「紹介してもいいですか」と頭を下げて回り、もうヘトヘト。晩飯を作る気力など到底ないので今日も今日とて店屋物で。

昼前にチラ見してから目をつけていた「稲毛屋」さん。テイクアウト側のショーケースには焼き鳥が多く並ぶが、裏手の食事処を見るに、どうも鰻屋さんのよう。時計は既に4時過ぎを指しているが、先刻と変わりない行列が続く。串焼き屋の多い阿佐ヶ谷ではあるが、賑わいはこちらが頭ひとつ抜けている。

東京に来てからというもの、物価が高いためか、それとも気のせいか、どうも焼き鳥が小さい気がしてならなかったが、こちらは満足感のあるボリューム。それでいて100円〜150円とリーズナブルなのも、行列のわけを納得させる。持ち帰りで20本ほど頼んだが3,000円もしなかった。肝心のお味も、そりゃあ並んででも、と肯かせるもの。個人的なオススメは砂肝。お馴染みのギャリギャリ感に身構えると、意外にも肉肉しい歯応えで、よそより味が濃い。1本135円。

さて、阿佐ヶ谷南口を貫く大動脈「パールセンター」。開業約70年と色は褪せ、目新しさを見出すことは難しい。けれどもそれこそ焼き鳥だって、身の固い親鳥ほど旨味が増すものである。絶えず若者が流れ込む高円寺とは対照的に、顧客の殆どがそこに定住する阿佐ヶ谷。人々を納得させ続けてきた業が、良心が、醍醐味がそこにはある。

血糖値の限界からすべては紹介できないが、まだまだ素敵なお店がたくさんある阿佐ヶ谷。高円寺で古着を漁るのもいいけれど、それももうありがち。古着でいえば、近頃一層目にするM47である。格好だけじゃなく、たまには目的地も人と外してみると、思いがけず乙な一日が過ごせるかもしれない。

書き手

Jian

早稲田大学文学部4年。連戦連敗不屈の就活戦士。本案件のライターには選んでいただけたが、本家本元のビームスは不採用。頂いた温情を糧に他社の内定に手を届かせるか、それともこの令和の時代に高等遊民になってしまうのか。明日はどっちだ!

Instagram:@laaaaaaaarva

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