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Cultural Apartments produced by BE AT TOKYO
第18回目ゲスト:THE FOUR-EYED オーナー 藤田佳祐
© 2020 BE AT TOKYO.
TOKYO LOCALS
文京区 / BUNKYO
2021.08.03
ずっと「暮らし」ということについて書いてきているが、生活を彩るのって楽しい、と最近思っていたりする。
最近フィルムカメラを始めた友人から、梅雨時期の紫陽花を色鮮やかに切り取った写真を見せてもらったり、そういう写真を家の壁に貼っているんだよね、といった話を聞いていると、いいなぁと思う。
そんな中、文京区白山上で、ひとつの雑貨屋さんに出会った。
「PADDY’S」という雑貨屋さんである。
お店の内観はこんな感じ。
ドイツ製の木のもの、フランス製の衣服、イギリスの陶器、日本の漆器や弁当具箱などなど、お店の中に所狭しと置かれた数々の雑貨からは、他のお店では見ないようなこだわりを感じられた。
いろんな国のものを置いているんですねとお店の方に話を伺うと、「特定の国のものっていうのはないけど、お客さんの手元でできるだけ長く使ってもらえるように、作り手の意識やその製造過程にはこだわって確認する」とのことだ。
お店のホームページには、
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フランスのブランドならMade in France
ドイツのブランドならMade in Germany…そしてメイドインジャパンの良いものも
できるだけそのブランドの国の工場でつくられている商品にこだわっています。
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と書かれている。実際に、商品も日本語表記でないものが多い。
店内の一角。日本では見慣れないパッケージ、見慣れない文字。ここだけ切り取ったら、海外旅行に来ているような気分に陥る。
ひとり暮らしで、食器としての陶器しか持っておらず、割るのが怖いなぁと思いながら使っていたことを思い出しながら、漆器を使ってみようかと思い、左側にある黒い漆器を手に取って見ていると、お店の人に声をかけてもらった。
「漆器も奥が深いんですよ〜」と言いながら、天然のものだから手触りを大事にしてほしい、と店内に在庫としてあった黒の漆器をすべて出してくださった。5個も!
僕は結局手前の列の一番左のものを選んだのだが、なんでそれを選んだのかというのを言語化するのも難しい。重さ、持った感覚、そういったもので一番しっくりきたのが、自分が選んだものだったから。
そんな話をすると、「そういう感覚が大事なんです!」と言っていただけた。普段言語でばかり考えている自分にとっては、なんだか新鮮な感じである。
その日はその漆器と他にいくつかの雑貨を買って帰ったのだが、後日、お店をひとりで切り盛りされている飯田さんにお話を伺うことができた。
―なんでこのお店を始められようと思ったんですか?
「モノって100均でもどこでも、今は揃っちゃうじゃないですか。でも、私が若い頃(バブル期)は、『本物』しかなかったんですよ。真似して作ったものとかはなくて。アメリカやフランスやイギリスの雑貨屋さんやセレクトショップが、景気のいい東京に出店していたんです。決して安いものではないから、お金を貯めて本物を買うっていう経験をしていたし、モノに対してすごく思い入れがあったんですよね。今は、特に若い人たちって、ユニクロや100均やニトリとかでなんでも揃っちゃうけど、同じものでも中身が違うでしょ。質が違うんです。作り手の気持ちとかも違う。そういったことを知れる場所が少ないんです。そういうものを残していきたいというか、ひとつひとつのものを簡単に扱って欲しくないなと思うんですよ」
「日々忙しい主婦の人や、仕事をしている男性や、いろんな人が、ちょっと素敵なお店があって立ち寄れたりするお店。そういうのがあると少しでも気持ちが違うし、買わないとしても、商品を見たり、この空間にいることで、楽しくなったり、すごい気分が良くなって家に帰れるんです。そういうことを自分自身が感じていたので、そんなお店を自分の生活圏内でやりたかったんです」
―そうなんですね。この前も少しお伺いしましたが、お店に置かれているものに対するこだわりを強く感じました。ちなみに、この地でお店を開かれているのはどうしてなんですか?
「最初は文京区の谷中とか千駄木で考えていたけど、その当時、20年前は女性がひとりでお店を開業するっていうことも一般的でないから、物件も見つからなかったんです。企画書を持っていってもどこも相手にしてくれなくて。それで、ふらふらと千駄木の方から白山の方にやってきたときに、ちょうど空きそうな物件に出会って。このお店から近くのところなのですが、大家さんと交渉して、長くお店をやってもらえる人を探していたとのことだったので、その場所で始めさせてもらったんです。
「私の祖母が以前白山に住んでいたり、会ったことのない祖父の実家のお寺がこの付近だったり、私の母が初めて東京に出てきたときにお姉さんと住んでいたアパートが吉祥寺(第2回参照)の近くだったりとか。そんなご縁もありました」
―20年もお店をやっていらっしゃると伺ったのですが。
「商店街というつながりが素晴らしいと思っているんです。(注:PADDY’Sさんは白山上向ヶ丘商店街に所属されている)とにかくなんでもひとりでやらないといけないので、大変な時は近所の皆さんが気にかけてくださったりするんです。商店街って若い人は入りにくい、みたいなイメージもあるんですが、ちょうど2代目・3代目の方々が自分と同じくらいの世代で。お祭りや商店街の行事などを一緒に進めていったりするようになったんです。商店街の方たちのご協力がなかったら20年も続けていられなかったんだろうなと思います」
飯田さんが作られているという、商店街のパンフレットを紹介してもらった。このお店を始める前は会社勤めだったこともあり、その時の経験も活きている、とのことだった。
「これだけ長くやってこられているのは、もちろんお客さんのおかげでもあります。私がこのお店で自分がいいと思っているものを選んでいる、という価値観を、ものの良さや私の視点も含めてわかってくださる方が文京区には多い気がします。やっぱり、この白山という地でやっていなかったら20年も続いていなかったと思いますね」
いつの間にか時間を忘れて話し込んでしまい、ここには書き切れないくらいのお話をたくさん伺った。
「このお店は私のライフスタイルそのものなんです。ビジネスとしては大変で難しいことではあるんだけど、お休みだろうとなんであろうと、考えているのはお店のことなんです」と、飯田さんが何度もおっしゃっていたのが僕には印象に残っている。
2018年から飯田さんが投稿されているブログを拝見すると、それぞれの雑貨に対する造詣の深さに驚くばかりでなく、お店に置かれているひとつひとつの雑貨を飯田さんがいかに愛されているのか、というのが伝わってくる。そして、ふと気づくと自分もその雑貨のことが好きになっている。
今回はそんな感じです。ではまた、次回。
書き手
NISH
自分で進んで探して買ってきて毎日飲む、というほどではないのですが、紅茶はEnglish breakfastが好きです。たまたま「PADDY’S」さんで見つけてしまい、思わず買ってしまいました。
東京23区に住む人が、自分の区の情報を紹介していくブログコンテンツ。