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目黒区 / MEGURO

祐天寺の好きなところ vol.2

2021.10.19

Text:長嶋太陽

町中華って呼ばないで

町中華と呼ばれるお店の店主は、「よし、私は今から町中華をやるぞ!」と言って店を開いたわけではないのだと思う。トレンドっぽい言葉がふりかけられて、昔からあるお店に新しい光が当たるのはいいことだけれど、「最近注目の町中華」と言われると、大切なことが見えなくなる感じがする。注目されるとかそうでないとか、そういうことの枠の外にあるからいいのだ。祐天寺の来々軒はそういうお店。

広い店内はとても清潔で、老若男女がシンプルに「食」をやっている。長く喋る人はあんまりいない。あっという間に料理が出てきて、それを美味しく食べて、食べ終えたら席を立つ。なぜかはわからないけど、その一連の所作は、自然で美しい。

そして美味しい。何を食べても美味しい。必要な食材を、必要な分量、必要なやり方で扱った結果、そこにあるのはただただ「美味しい」。来々軒に通う中でそういう美味しさについて知った。そして、たくさんあるメニューを網羅すればするほど、その美味しさの多様さと、それを支える規律の共存に気づく。なんていうんだろう、優れたルールで適切に機能するマスゲーム的なイメージが湧いてくるというか。生肉にウニを乗せなくていい。炎の柱をあげなくていい。断面がレアじゃなくていい。いい肉は塩で食うのでもない。料理とはアイデア、技術、歴史の集積なのだ。サンラータンメンに、真理を見ている。

この間食べたのは中華丼。全ての食材の火の入り方が適切で、辛子のアクセントも絶妙。中華丼、という言葉を聞いて反射的にイメージする味の、最適を超えた答えって感じ。自分のなかの「中華丼ってこんなもんだ」はずいぶん低い位置にあったんだな。クラシックで均整が取れたこの一皿が、大体5分くらいでテーブルに運ばれてくる。本当に何食べても美味しいからおすすめを聞かれても困るけど、麻婆茄子は特にいい。それまで麻婆茄子に興味のなかった自分が、毎回頼むくらい好きになった。

昭和8年。1933年にはじまった来々軒。90年くらい世代を跨ぎながらふるわれてきた鉄鍋の軌跡が、「最近注目」されないことを心の隅に願いながら、毎週黙々と通っている。

書き手

長嶋太陽

神奈川県平塚市生まれ目黒区祐天寺在住の編集者

Instagram:@taiyo.ooo(https://www.instagram.com/taiyo.ooo/
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