BE AT STUDIO HARAJUKU ARCHIVES
第4弾テーマ『滑稽』春風亭一之輔師匠を迎え「初天神」を披露!
2023年1月16日(月)18時30分開場・19時開演・21時終演
落語会『みんなの落語 ―この落語家のこの噺がすごい!そろそろ編―』の第4弾を開催!
© 2020 BE AT TOKYO.
BEAT CAST
TETS
2023.01.06
2022年12月17日~25日まで、関西をのコミュニティを一同に介したポップアップイベント「IS THIS WEST HERE?」がBE AT STUDIO HARAJUKUにて開催された。アートやフード、ショップなど、多様な表現が入り混じる中、一際存在感を放っていたのがフォトグラファーのTETSことTetsuya Shimoyamaによる展示だ。ニューヨークに生きる人々のスタイルを切り取った『212.MAG』を発刊する彼の作品からは、さまざまな想いを背負ったニューヨーカーたちの力強いヴァイブスが伝わってくる。そもそもどうして彼は写真を撮るようになったのか? どうしてニューヨークだったのか? そしてパンデミック以降、海外渡航が難しくなる中での気持ちの変化などについて、自身の想いを語ってもらった。
ー
TETSさんが写真を撮るようになったきっかけを教えてください。
TETS
もともとヒップホップが好きで、そういうカルチャーに携わっているつもりなんですけど。それが生まれたのがニューヨークのブロンクスで、やっぱり自分が好きなもののルーツとなる場所に行ってみたいという単純な好奇心があったんですよ。そしたらカルチャーショックを受けて。そこで脳みその中で勝手にシャッターを切っていたんでしょうね、単純にその瞬間を写真におさめたいと思ったんです。
ー
はじめてニューヨークへ行ったときはカメラは持っていなかったんですか?
TETS
持ってませんでした。だけど、帰国してからもずっと写真を撮りたいって思ってて。もう1回行って、その気持ちが本物かどうか試してみようと思ったんですよ。それで行ってみたら、もっと撮りなくなってしまって、3回目でようやくカメラを持って行って、撮りはじめた感じです。
ー
1回目にニューヨークへ行かれたのはいつ頃ですか?
TETS
2001年ですね。ちょうど21年前。当時21歳でした。
ー
映像を撮ったり、絵を描いたりなど、表現方法はたくさんあると思うんですけど、どうして写真だったんですか?
TETS
もうすでに頭の中で絵が浮かんでたんですよね。それで「写真や!」って直感的に思ったというか。じいちゃんがアマチュアで映像をやってて自分の部屋をスタジオにして編集をしたりしてて。そういうのを小さい頃から見てたのも影響しているかもしれません。だけど、映像よりも写真のほうが自分にもニューヨークという街にも合っている気がしたんです。
ー
出身は大阪なんですよね。どんな少年だったんですか?
TETS
小学校のときにバスケが好きやったんですけど、当時は(シカゴ・)ブルズとか、(マイケル・)ジョーダンが全盛のとき。自分もそれに影響を受けてバッシュが欲しかったんですけど、小学生やし手に入れられないじゃないですか。だけど、どこかこだわりたい気持ちがあって、ソックスでおしゃれをしていたんです。バスケのソックスで、通称“バッソク”ってぼくらは呼んでたんですけど。それを地元やミナミのスポーツ用品店でディグってて。振り返ると、今も昔もやること変わってへんなって思います(笑)。
だけど、それがニューヨークへ行ったときはみんな当たり前にやってたんですよ。日本では自分の友達だけやったけど。ニューヨークではみんな当たり前のようにキャップの位置にこだわったりとかして、すごくシンパシーを感じて。
ー
バスケに興味があって、そこからヒップホップなどのブラックカルチャーにのめり込んでいったんですか?
TETS
そうですね。いちばん最初にバスケ、そのあとに音楽、そしてアートという順番ですね。
ー
ニューヨークへ行って、どんなところにカルチャーショックを受けたんですか?
TETS
たとえばジョーダンのスニーカーって、日本ではシューズだけにフォーカスされているような気がするんですよ。だけど、それが生まれたのはバスケっていうカルチャーがあったからですよね。ニューヨークでも、バスケに親しんだ上でみんなジョーダンを履いていて。そうやって生活や文化からスタイルやファッションが生まれるんやなっていうのを再確認したというか、「俺が見たかったのはこれやったんやな」って思って。
ー
土壌の違いみたいなものを感じたと。
TETS
そうですね。そういうところも含めて、全部ヒップホップやんって思って。
ー
それでカメラを買って、ニューヨークへ行き、写真を撮るようになったと。
TETS
本当は声をかけずに街の瞬間を撮りたかったんですけど、それはやっぱり失礼やしプライバシーの問題もあるかなと思って、ぼくは声をかけて、こんなんやってるっていうのを話した上で撮るようにしてますね。もうずっとやってきたのでいまは声をかけなくても撮れるようにはなったんですけど。
ー
写真を撮ったことなかったから、はじめはどんどん撮りながら手探りでやっていったんですか?
TETS
そうですね。最初はミスもいっぱいしましたし。
ー
合計でどれくらいニューヨークへ行かれたんですか?
TETS
40~50回くらいですね。昔は一度の滞在で1~2ヶ月くらい行ってたんですけど、自分のギャラリーを設けてからは一度に2~3週間くらいの滞在を小まめに刻んでいくような感じになりました。
ー
これまでに何人くらい撮ってきたんですか?
TETS
もう数えられないですね。
ー
撮っているのはニューヨークのあらゆるエリアですか?
TETS
とくに黒人街が多いです。ヒップホップやレゲエが根付いている街。ブロンクス、ハーレム、ブルックリン、クイーンズ、スタテンアイランドなどですね。
ー
その中でいわゆる貧困地域にも行かれているんですよね。前提としてカルチャーに対するリスペクトがあって行かれていると思うんですが、それを相手に受け入れられるかどうかはまた別の話だと思います。排他的なところもあると思うんですよ。
TETS
そうですね。最初は結構危ない目に遭ったこともあるし、いい思い出だけではないですね。だけどそれは自分の立ち振る舞いとかが悪かったんですよ。21歳くらいのときやったから。目には見えない街のルールとかあって、そういうのを理解せずにやっていた。あとは距離感も、近すぎても遠すぎてもあかんし。そうしたことを理解するのはスナップを撮る上で必須のことだと思いますね。
ー
そうした距離感の絶妙さにTETSさんの写真の魅力があると思います。
TETS
自分の素性を明かした上で写真を撮るから、ちょっとは打ち解けられているかなと。だけど、なかには「お前はポリスか?」とか、そういうのを気にしている人もいて。
ー
ウェルカムじゃない人も当然いますよね。
TETS
海外の人たちって撮られ慣れていると思いがちですけど、みんながみんなそうじゃないんです。『212.MAG』が出来てからは、見せながら「こうゆうのやってんねん」って話せば理解してくれる人も増えてきたけど、それができるまでは大変でした。
ー
写真を見ていると、みんなポーズを決めたりして、カッコつけてますよね。日本だと、逆に恥ずかしがったりする人がほとんどだと思うんです。
TETS
ぼくはなんも言わないんですよね。こうやってくれとか、あっち向いてくれとか。撮影時間はほんまに5~10秒くらい。その中で一瞬を狙うということをやってきました。その一瞬を見つけるのがもしかしたらうまいのかもしれないですね。
ー
先ほど話していた距離感の話で、それってすごく測るのが難しいじゃないですか。
TETS
そうですね。だけど、それって日本人同士でも一緒やと思う。いきなり距離感縮めようとすると人は警戒するし、適度な距離感って人間関係ではすごく重要じゃないですか。それがスナップには顕著に出るからおもしろいですね。
ー
その距離感みたいなものが、TETSさんの写真の醍醐味であり、写真を撮る極意でもあるんですか?
TETS
いや、それは極意ではないですね。もちろんすごく大事なことではあるけれど。
ー
となると、TETSさんの写真の極意が知りたいです。
TETS
若い子らにもよく「どうやったらかっこいい写真が撮れるようになりますか?」って聞かれるんですけど、生活からスタイルが生まれるのと一緒で、かっこいい生き方をしてたら勝手にかっこいい写真が撮れると思うんですよ。いくら完璧に近い写真が撮れても、そいつがダサいことをしてたら意味がないと思うし、結局それって形だけじゃないすか。そうじゃなくて、生活から生まれる自然なものを大事にしていたら、勝手に自分らしさやオリジナリティが生まれてくると思うんです。
ー
日々生活をする中で自分らしさが固まっていて、同じ景色でも見えてくるものが変わってくるということですよね。
TETS
そうですね。通る道でも変わるし、出会う人でも変わるし、ようはどこにアンテナが立っているかということですね。それでちゃんといい景色に出会えたら、それをキャッチできるようにしておかないといけない。その中で距離感も大事になってきますし。生活に意味があって、その中でいかにクールでいられるかが大切やと思いますね。
ー
『212.MAG』はこれまで何号ぐらい出しているんですか?
TETS
30号くらいは出してますね。小さなものも含めるともっとあると思いますけど。
ー
はじめから続けようという気持ちがあったんですか?
TETS
そうですね。マガジンだけじゃなくてカレンダーもつくってて。はじめてからもう20年近く経ってますけど、雑誌は雑誌で似たようなことをやっている媒体が増えてきました。それこそウェブでもスタイルサンプルが多くなってきたし、インターネットの影響もあるけど、それぞれの土地による違いが最近わかりずらくなってきたんですよ。
ー
わかりづらくなってきた?
TETS
日本でもそうやと思うんですけど、ファッションが均一化してきたというか。昔は生活から生まれるスタイルが好きやったけど、正直、最近はあまり興味が湧かないんです。
ー
はじめは見えないもの、わからないものがあって、それを知りに行っていたけど。
TETS
そうですね。もちろんいまのようにネットが普及してない時代だったから行く意味があった。それがいまは薄まってきた感覚はありますね。昔はブラックカルチャーに影響を受けてきたけど、いまはもっとミックスされた文化、黒人と白人、その中にメキシカンやアジアンも混ざって、まさに人種のるつぼというか、そういうニューヨークのほうが興味がありますね。ミックスされたものがニューヨークの象徴でもあると思いますし。
ー
ニューヨークに住みたいとは思わなかったですか?
TETS
最初は日本にニューヨークのスタイルを届けたいという気持ちがあったんですよ。それをどうやるかというときに、写真という方法がいちばんベストだと思った。もともとぼくは大阪にある「FIVESTAR」というヒップホップファッションのお店で働いていて、そこに来る若いお客さんとか、街で形だけになっている子たちに「これが本物やで」っていうのを伝えたかったんです。それが大きなミッションやったので、住みたいとは思いませんでした。
ー
ニューヨークはもちろん、大阪でも写真は撮られているんですか?
TETS
撮ってはいるんですけど、大阪では自分のギャラリーがあって、そこで制作をしたり、お客さんが来たら接客したり、そうした作業に追われてますね。今回の展示では大阪で撮った写真で構成したZINEも持ってきたので、新鮮に思われる人も多いかもしれないですね。
ー
コロナ禍でもニューヨークは行ってたんですか?
TETS
行ってなかったです。だけど、いま話した大阪のZINEはコロナ禍で生まれたものですね。行けなかったからこそ、大阪と向き合えたというか、すごくいい機会になったなと思ってます。それまでは自分の地元を見つめようとは思わなかったし、そういう時間もそもそもなかったから。だけど、ニューヨークに行かれへんってなって、なにができるかっていうことを考えたら、自分の街を撮るのが当たり前やんって思って。自分の街を愛して、自分の街をレペゼンする。それがヒップホップやなと。
ー
どんな写真を撮っているんですか?
TETS
景色が多いですね。人物はニューヨークで撮っているから。大阪人もパンチある人多いですけど、自分的に撮りたいと思う人があまりおれへんくて。街を歩いてても、自分の方が目立ってるやんって思うんですよ。
ー
大阪を撮ってて、見えてくるものってあります?
TETS
単純に、地元やばいなと。やっぱり大好きなんで、ええなぁって思いますね。めっちゃ絵になるところたくさんあるやんって。みんなニューヨークの写真を求めるんですけど、比べるもんじゃないのは分かってるけど、それぞれの街の良さがあると思うんです。それにちゃんとみんながローカルのオリジナリティを築いていけたら、もっとおもしろくなると思う。これからは、そういう時代がやってくると思うんですよ。各地で独自の風習や文化を持っているはずだから、そうゆうものを大事にしていく時代になってくるんちゃうかなと。
ー
いまはコロナが徐々に緩和されてきて、海外へ渡航する人も増えてきました。またニューヨークへ行きたいという気持ちは強くなってきませんか?
TETS
そうですね。行けるなら行きたいですけど。ただ、自分はワクチンを1回も打ってへんし、そういう問題がクリアにならないと正直厳しいなという気持ちでいます。そのために無理して自分の生活スタイルを崩そうとは思わないし、それならいまできることを一生懸命やる方が正しいんちゃうかなって思ってますけどね。
ー
あくまで自然体にというか。
TETS
そうですね。行けるようになったら行ったらいいかなと。カナダやヨーロッパはワクチンいらないんで、逆にそういうところにフォーカスするっていう手もありますし。もちろんニューヨークにこだわってやってきましたけど、そこがすべてとは考えてないんで。
ー
いまのところは大阪で撮り続けることが最善なんですかね。
TETS
そうですね。だけど、今回東京にこうして呼んでもらって、それを皮切りにいろいろ動きたいなとは思ってます。関西からはほとんど出てなかったので。
ー
今回東京で展示されて、伝えたかったところや、見て欲しかったところはどんなところですか?
TETS
まずは大阪の写真ですね。あと、いままでマガジンという形でアウトプットをしてきましたけど、今回はよりDIYに近いZINEという形でも表現をしていて。自分でカラーコピーを取って製本して、ほぼひとりで作業してつくったんです。そのぶん30部しかできなかったんですけど。自分自身そういうところに回帰しているというか、一時期は5000部とかマガジンをつくってましたけど、真逆になってて。一冊一冊に気持ちを込めてやってて、そういうところに注目してくれたらなと思います。
マガジンとZINE、どっちがいいとか比べるもんじゃないけど、そうゆうDIY的なことをやることによって、両方が相乗効果で活きればいいなと。マガジンはもうみんな知ってくれているから、逆にぼくの知らない部分を理解してもらえたらいいですね。
ー
ワクチンの問題がクリアになったら、やっぱりニューヨークの写真が見てみたいという気持ちもあります。
TETS
できたらいいですね。
ー
昔に比べるとスナップを撮るフォトグラファーも増えてきた中で、やっぱりTETSさん独特の距離感があると思うんです。
TETS
ぼくも若かったし、その年代だからこそ撮れていたものもあると思うんです。いま仰ったように写真をはじめている若い子もすごく多いし、実際にニューヨークで撮っている日本人もいるので、スタイルは違いますけど、自分が絶対にやらなアカンっていう気持ちにはまだなっていないですね。
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そういう意味でテーマやコンセプトが見つけづらくなっていると。
TETS
自分の中から見つけないといけないんで。ローカルの色も変わってきているし、ぼく自身のアンテナも変わって来ていますから。だけど、ハーレムとかで渋いおじちゃんをモノクロのフィルムで撮ったらいいかなとか、アイデアはありますね。いままではデジタルで撮ってきたけど、人として味のある人たちをフィルムで撮れたらおもしろいかなと。最新の機材とかは若い子らのほうが使いやすいでしょうし、自分が必死になってそこを追いかける必要もないですし。
ー
先ほどもあったように、自然体でいることが自身のスタイルにつながるわけですね。
TETS
そうですね。自分自身がカッコいいと思うことをやり続けたいですね。
Photographer
TETS
ヒップホップの洗礼を受けて本場ニューヨークへと足を運ぶ中、フォトグラファーとしてのキャリアをスタート。後に現地のストリートを映し出す『212.MAG』を創刊する。2016年からは大阪・南堀江に自身のギャラリーも構え、精力的に作品のリリースを続けている。
Instagram:@tets8_photographer(https://www.instagram.com/tets8_photographer/)
次の東京を創造していく表現者にスポットを当てたインタビューコンテンツ。