BE AT STUDIO HARAJUKU ARCHIVES
リアルとデジタルを横断する実験室を期間限定オープン
3月4日(土)〜19日(日)
Supernatural LABO
© 2020 BE AT TOKYO.
BEAT CAST
Saho Ito
2023.02.17
人生とは悲喜こもごも。苦しいときもあれば嬉しいときもあるし、後悔もすれば、その先に光を見いだせるときもある。原宿の小さな路地で洋書のセレクトショップ&カフェ「BOOKS BUNNY」を営む伊藤沙帆さんも例に漏れず、紆余曲折を経て、本屋を開業し、パペットクリエイターとしての顔も持つ。2月18日(土)から「BE AT STUDIO」で開催されるパペットショーを前に、彼女の半生をいま一度。
ー
では伊藤さんの生まれからお聞かせください。
伊藤
1987年生まれです。世田谷生まれです。駒沢公園の近くが地元で。
ー
代々、東京にお住まいなんでしょうか?
伊藤
祖父は向島で、母は横浜で生まれ育って父は杉並です。
ー
生粋の江戸っ子というわけですね。
伊藤
世田谷区と目黒区の引っ越しを繰り返してますね。
ー
ご両親は何を?
伊藤
父は設計士です。母親も、元々デザインの仕事をしてました。
ー
アーティスト家系だったと。
伊藤
かっこよく言えばアーティスト家系です(笑)。祖父も画家だったりするんですけど、どのくらい売れていたのかな……(笑)
ー
でも、家はアートに溢れてたんですよね?
伊藤
そうでしたね。
ー
アーティストのご両親って、育て方も特殊だったりするんでしょうか?
伊藤
かなり自由にやらせてもらってました。ただ父方の親戚もアーティストだったり美大を出てる人が多くて、変な人もいて。たまに父のクルマに「うんこ」って落書きされてたりとか……。
ー
え、うんこですか? それは誰が?
伊藤
お父さんは「姉貴の仕業だ」とか言ってましたね(笑)。とにかく、そんな変な親戚がめちゃくちゃ多かったから、私はまともなほうだったと思います。とにかく周りは変わった人が多かったですね。
ー
伊藤さんもそこから小学校、中学校と進んでいくわけですが、自分が周りと違うなって感じることはありましたか?
伊藤
小学校から高校までは、私が突拍子もないことをすることに対して、友達も面白がってくれて一緒にわいわいやってたんです。
ー
例えば?
伊藤
着ている服を裂きまくったりとか(笑)
ー
パンクですね。
伊藤
それと、油絵が好きで、絵は描ける子って思われてたと思います。だけど大学に入ったら「伊藤さんってやばい人だね」みたいなことを言われて、若干気に病んでしまったというか。
ー
伊藤さんの学歴を見て驚いたんです。慶応大学を卒業されてるんですよね。
伊藤
周りは、美大に行ったほうがいいって言ってたんですけど、将来、いろんな選択肢を持てたほうがいいと思って、1年間めちゃくちゃ勉強して入学して。なんだけど入学した途端に「なんだこの世界、つまらん!」みたいな感じになっちゃって。
ー
つまらなさの要因はなんだったんでしょうか?
伊藤
とにかく、私がめちゃくちゃ浮いちゃって。大学からはエリートで行こうと思ったんですけど、逆に反骨精神みたいなものもあったりして、わけわかんなくなるっていう……。最初は親にも「てっぺんからの景色、見せてやんよ!」みたいに息巻いてたんですけど、2年後には「やめたいよー(涙)」みたいな感じになってましたね。
ー
スクールライフはいいとして、プライベートはどうだったんですか?
伊藤
プライベートはもう遊びすぎてて、脳みそが完全に溶けて、本当に語れたもんじゃないです。 毎晩ほぼ六本木にいましたね。街歩いてたらみんな知り合いみたいな感じで。
ー
そこも意外で、てっきりカルチャーにどっぷりかと思っていました。
伊藤
その当時はカルチャーっていうより「どれだけ下品な遊びができるか」の勝負だったんです(笑)。なんですけど、ふと「美大に行ってる人たちは、自分が遊んでいる瞬間もスキルを磨いているんだろうな」とか考えてましたね。だから、本当にいろんな選択を完全にミスったなと思って。いろいろ諦めの状態でしたよね。しかも、大学に入ったのはいいけど、入った後の成績も悪かったから、いい会社にも行けないだろうし、 いい会社に行きたいかもわからないから、もう、なんか、死んでました。
ー
夜遊びで色々ごまかしてたと。
伊藤
そんな感じです。
ー
大学を卒業するのは何年のときですか?
伊藤
2010年でした。そこから大手デパートの契約社員として中途で入社したんです。婦人服の売り場担当で、これまた、2日目で嫌になるみたいな感じで。上はジャケットなのに下が短パンってどういうデザイン!? みたいな(笑)。いちばん嫌な時期だったかもしれないですね。結果的に、そこで2年働きましたけど。
ー
そしてついに、「BOOKS BUNNY」がオープンすると。
伊藤
大学から続いた暗黒の時代に「やっぱり私はアーティストなのかもしれない」って思ったんですよ。血は争えないっていうのかな。で、昔からデザインの本は好きで、近所の古本屋とかで買ってたんです。家の本棚もアート系の本でいっぱいになっていて。それってたぶん、私の好きなものがギュッと詰め込まれてるものだし、私がやりたいことは、自分の脳の中にあるものをみんなに発表すること。店という形で脳内を発表するのもアートだよなっていう考えに行き着いて。
ー
たしかに、アートも自分の頭の中を作品に落とし込むわけですからね。
伊藤
そう思ったし、本屋っていうのもひとつの表現の形なのかなと思って。お店という形でやれば、多少お金にもなるし、ちょっとやってみるかって感じで。
ー
ノウハウは全然なかったんですよね?
伊藤
からっきしですね。いまは食事も提供していますけど、オープン当時は客席も今の半分で、もっと本が店を埋め尽くしてたんです。だけど、恐ろしいほどに儲からなくて……。最初、無理して原宿で、めちゃくちゃかっこつけて始めたんですけど、売り上げが立たなくてどうにもならないから、続けられないと思って飲食も本格的にやろうかと。
伊藤
やっぱり人って食べることは毎日じゃないですか。それ以外って二の次三の次なんですよね。で、最初は何を出していいかわかんないから、定食屋みたいなことやってたんですよ。カツ煮とかね(笑)。そのときは本当にサラリーマンばっかり集まってきちゃって。
ー
神宮前にサラリーマンがいるんですね。
伊藤
そうなんですよ! カルチャーに触れて、アートな人生を歩みたかったからやってたのに、カツ煮とかチキン南蛮とか出しちゃったせいで、サラリーマンの憩いの場になっていて。しまいには「定食ってノボリを立てなよ」とか言われちゃったりして。壁とかに「納豆あります!」とか書いてましたもん(笑)
ー
内装からはイメージできないですね。
伊藤
それが嫌で、ランチメニューを変えて、みたいな。
ー
いまも本は売れないですか?
伊藤
年に1回ぐらいしか売れないですね、本当に。だから、たまに本を見ている人がいると「何しに来たんだろう」みたいな感じになっちゃって。売ってるってことをみんな知らないかもですけど、全部売ってるんですよ、実は。
ー
伊藤さんはニューヨークのアートブックフェアにも行かれてましたよね?
伊藤
そうですね。それ以外にも、普通に向こうの古本屋さんに買いに行ったりとかして。
ー
いまも続いていますか?
伊藤
コロナの前までは行ってました。2012年からずっと。
ー
本に関しては、どういう選考基準なんでしょうか?
伊藤
なんか、昔ここ、エロ本屋とか言われてたんです。結構きわどい本を置いてて、その本だけは結構売れたりするんですよね。日本って規制が厳しいから、ちょっとヌードの写真集とかでもNGなんですけど、海外ってそのラインがゆるくて。そういう日本で買えないものを買ってました。
伊藤
ただ、それを100冊とか買ってたから、あるとき「ポルノ輸入のわいせつ罪ですよ」みたいな電話が税関からあって。それを輸入したら、本当に罪に問われるから、 アメリカに送り返すか、税関で燃やしますみたいな。
局所が映ってるのが法律に引っかかるってことで、局所が映ってる本のタイトルを教えてと職員の人に言われたんです。『3Dペニス』とかっていうタイトルの本もあったから、それをね、まぁ伝えるわけです(笑)
ー
(笑)。でも、やっぱりエロは売れるんですね。
伊藤
エロは強かったです本当に。グロいエロとかではなくて、笑えるやつ。例えば、その『3Dペニス』とかは、3Dメガネが付属していて、 かけると立体で見えるみたいな。
ー
いまはありますか?
伊藤
それはないですけど、ビッグペニスの本はありますね。これは、自分のバックに入れて持ち帰ってきたんです。
ー
確かにこれはエロ本ではないですね。笑えます。
伊藤
あと、ジャケ買いみたいなやつもあれば、題名の文字が響いたものもあるし、基本的には綺麗なだけじゃなくて、ちょっと毒があるのが自分の中の選考基準かな。
ー
そもそも、アートブックってどう楽しむのが正解なんでしょう?
伊藤
私もわかんないんですよ(笑)。ほぼインテリアみたいなもんかな。それと、なにかを作るときに参考にしたりとか。
ー
いまあるなかで、おすすめを伺えたらと思うのですが。
伊藤
最近、新しいものが買えていないんですけど、これなんかは気に入ってます。ニューヨークの自費出版してるお店で買ったもので、昔のレイブのフライヤーを集めたものですね。
ー
値段が書かれてないんですが、おいくらですか?
伊藤
お気に入りの本は値付けしていなくて、その人を見て決めてます(笑)
ー
怖いですね(笑)。ちなみに、こうしてゆっくり本を見るとなったら、何時に来たらいいんでしょうか。
伊藤
15時くらいなら、ちゃんと接客もできるかなって感じです。
ー
本のセレクトも、雰囲気も、伊藤さんからは、どこかいい意味で変態性を感じていて。
伊藤
相当だと思います、自分で言うのもあれですけど。ただ、私にとって、コロナの3年間は自分の変態性を出せずにいたんですよ。ものすごいフラストレーションが溜まっていて。製作物も作れなくなったし。
ー
何を製作されてたんですか?
伊藤
ハロウィンの仮装を自作していて。なので、このお店をやりながら仮装家としても生きてたんです。自作の衣装で毎回大会に出て、賞金を総なめにしてたんですよね。1年目で30万円の賞金をもらったのが、この諭吉の仮装で。
ー
クオリティが想像を超えてました。
伊藤
我ながら、毎年すごかったんですよ(笑)。他にも酉の市の熊手とか、折り鶴とかね。
ー
始めたきっかけはなんだったんですか?
伊藤
この店で毎年仮装パーティをしていたんですけど、ここのお客さんが会社で仮装コンテストをやるってなったときに、出場者がなかなか集まらなくて、伊藤さん出てよと。で、一万円札の仮装で登場したら、あまりにも反応が良くて。
ー
たしかに、インパクトもありますしね。
伊藤
そこで「来年も楽しみにしてるね」みたいな感じで言われちゃったんで、 やるしかないと。だから、毎年10月が近づくと、プレッシャーで吐き気がしてきて……。
ー
じゃあ、それがこの3年間はなかったんですね。
伊藤
そうなんです。
ー
そのフラストレーションがパペット作りに向かったと。
伊藤
そうです。だから、パペット作りをはじめたのは2020年からで。
ー
仮装できない鬱憤を晴らすために。
伊藤
仮装してる時って、 自分じゃない何かになってる感じがすごくあって。それで、いろんな舞台に出ていくのが好きだったんです。仮装っていう鎧を着たときに、すごい強くなれる自分がいて。だから自分じゃない何者かに脳内を発表させるのが好きなのかもしれないと思ってたんです。そんなことを思ってたら、本当に急に「パペット作ろう」と思い立って。
ー
その衝動だけで。
伊藤
そう。それも突然。
ー
その時の衝動でできたのはなんですか?
伊藤
私、タランティーノが大好きだから、タランティーノの映画をパロディしようって思って、ジョン・トラボルタとユマ・サーマンを作りました。それがもう、ガチャガチャで(笑)。『パルプフィクション』のツイストダンスのシーンを再現しようとしたんですけど、本当にひどすぎて(笑)。動画があるのでぜひ。
ー
そしていまお持ちのものが、「BE AT STUDIO」で開催するイベントのために作ったと。
伊藤
そうです。このパペットを使って2月18日(土)と19日(日)にショーを。グッズも販売します。
ー
パペットをいちから作る時って、完成図はあるんですか?
伊藤
まずは、モデルとなる動物を決めます。「ロブスターいいかもなー。ロブスター、ロブスター…テキ屋のロブスター!」みたいな感じで。
ー
今作はどうですか?
伊藤
今回展示をやるってことになって、 一応パペットのチームが「STUDIO BUNNY」っていう名前でやっているので、そのメインキャラクターがいいなと思って。あたかも前からいるかのように、急遽作ったんです(笑)
ー
伊藤さんの選書にも通づる毒っ気とかかわいさも感じられて、いい表情ですね。
伊藤
こうやって手を入れてね。
ー
「BE AT STUDIO」でのショーは、どんな内容なんでしょうか?
伊藤
「原宿ラフォーレ」でやるっていうことと、私も原宿にお店を構えてるから、この街(原宿)を、1960年から現代まで遡って、カルチャーの歴史を追うようなストーリーになっています。このウサギたちが時代時代にトリップして、その年代の原宿を体感するみたいな。
ー
ちなみに、バニーたちの声は低いんでしょうか?
伊藤
それがまだ、決まってなくて……。でも、低くて、ボソボソ喋りそうな感じはしますよね。
ー
ちょっと眠そうな感じで。
伊藤
そうですね。
ー
パペットの活動は定期的に続けていく予定ですか?
伊藤
それもありつつ、本屋もやって、仮装も続けていきたいですね。
ー
では最後に、パペットから一言、読者にお願いできますか?
伊藤
(高い声で)みんな来てね!
ー
ありがとうございました!
伊藤
これ、別に動画じゃないですけど、ちゃんとこの声伝わってます?(笑)
BOOKS BUNNY OWNER
伊藤沙帆
いとう・さほ。1987年生まれ、東京都出身。慶應大学を卒業後、25歳のときに洋書のセレクトショップ&カフェ「BOOKS BUNNY」を原宿にオープン。その後、本業とは別に仮装の実力を開花させ、数々の仮装大会で賞を総なめに。コロナ禍以降はパペット製作にも取り組んでいる。
Instagram:@sahodog31(https://www.instagram.com/sahodog31/)
次の東京を創造していく表現者にスポットを当てたインタビューコンテンツ。