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BEAT CAST

AOI YAMADA

素敵なおばあちゃんになるために、ダンスを通して人と繋がり“自分”を考える。

2021.02.05

Photo:Yutaro Tagawa / Text:Rio Hirai

赤いコートに真っ青な手袋、金髪に赤リップが映えるアオイヤマダさんが現場に現れると周囲の空気がパッと明るくなった。「ちょっと踊ってみてください」というこちらの無茶ぶりにもなんなく答えてくれる度胸のありようは、今年成人式を終える年齢とは思えない。それもそのはず、15歳で単身上京してから錚々たるアーティストのミュージックビデオに世界的アーティストのインスタレーション、そして舞台の主演など数々の大舞台を踏んできた。こちらの求めることを瞬時に捉え堂々と振る舞ったかと思えば、「本当の自分がわからなくなるときもある」と胸のうちを話してくれて、どこまでも自然体だ。次々と新しいステージに挑戦している今、どんなことを感じながら活動を続けているのか聞いてみた。

作品作りを通して、変化する自分を楽しんでいる。

アオイヤマダさんはどうして、ダンスを始めたのでしょうか?

アオイ

幼少期の頃、言葉の存在を少し窮屈に感じていたんです。意味が制限されるし、うまく伝わらないし、誤解されるし、思うものが純粋には排出されない。それが、初めて「ダンス」というものに触れたときに、“出てしまったもの”のように感じたというか…….、“型のないかたち”のように思えて面白かった。言葉と同じようになかなか純粋には排出されないけれど、良し悪しはつけがたい。今では言葉を使ってふざけることもできるし、その薄さや厚さも知ったから、言葉も好きになりました。

高校在学時からダンスで様々な作品に参加していますが、上京してきた頃には、どんな心境で活動していたのでしょうか?

アオイ

中学卒業後の進路を考えるタイミングで、都内に寮がある高校を選んで上京しました。親にも、周りの友達にも「アオイはその方が良い」って背中を押してもらったのを覚えています。東京に来たばかりの頃は、好きなカレーを食べ歩いては「カレー日記」をつけていました(笑)。食べたら終わりだから、何か形に残しておきたいなってまとめたんです。お仕事をいただくようになったのも、まだ東京にも慣れていなくってホームシックになっているような頃でしたね。「こんなところで踊れるんだ!」という興奮と、何もわからない戸惑いとが自分の中に混在していて、現場で泣き出してしまうようなこともありました。あとは、今のマネージャーとSNSを通じて知り合ったことも、その後のキャリアを定める大きなきっかけになりました。それまではストリートダンスをやっていたのですが、もっと幅広い表現の世界を彼女に教えてもらったんです。

最近ではダムタイプの「2020」やCITIZENのパフォーマンスに出演したり、インスタレーションにまで表現する舞台の幅を広げていらっしゃいます。

アオイ

ダムタイプやCITIZENのパフォーマンスのテーマになった寺山修司などは、周りの方々に教えてもらって見ていました。地元でダンスをやっているときには出会わない作品や世界観で、周りのダンサーで取り組んでいる人もいなかった。仕事としてこういう表現が求められる世界があることも知らなかったし想像もしていませんでしたね。でも、上京してオーディションを受けて機会を頂いて、漠然と自分が「挑戦したい」と思ってきたことを実現できているような気がします。機会を得られるごとに「この感覚で良かったんだ」と自信にも繋がっています。

具体的に、求められる表現にはどんな“違い”があるのでしょうか?

アオイ

私のそれまでのダンスが感覚的に動くものだとしたら、ダムタイプの作品は論理的に動きを定めていくようなアプローチでした。今起きている事象やその背景を、「伝える」ための表現というのでしょうか……。例えば、「コーヒーがある」ということを表現するときに、「おいしい!」とか「苦い!」という自分が解釈した要素を付け加えるのではなく、シンプルに「コーヒーがある」こと自体を表現するというか……。言葉で説明するのはなかなか難しいですね。作品を作るために何時間も話し合いを重ねるんです。出てくる用語もわからないけれど、私なりに考えて「こんな感じですか?」と体を動かして表現してみる。それに対してリアクションが返ってきてまた話を詰めていく、というのを繰り返しました。

ダムタイプのアートとはまた異なる方向性かと思いますが、「星の王子様」では王子役として出演されました。その経験は、アオイさんにとってどのような機会でしたか?

アオイ

「星の王子様」は、自分のキャリアの中でも印象的な仕事になりました。まず何ヶ月も同じ仲間と同じ振り付けで稽古を重ねる経験自体が、私にとっては珍しかったですね。これまでやってきたことが“自己表現”だとしたら、「星の王子様」で表現したのは“自己”ではなく、「王子として存在する」ことを見せるというのが新鮮でした。

なるほど、これまで求められてきた表現と全く異なるアプローチだったんですね。

アオイ

関わるスタッフや身に着ける衣装によっても自分の表現は変化するものですし、「自分は(この作品において)どうあるべきか」と役割を演じるのも面白がっているようなところがあって……、自分は作品の材料のひとつであり、でも同時に画策する側でもありたい。これまでパフォーマンスやインスタレーションは、その時々のお客さんや場所のムードを汲み取って自分の踊りに落とし込んでいて、その表現がその場にいる誰かに刺されば良いと思ってきたのですが、「星の王子様」の舞台はまた異なる経験でしたね。

年を重ねることを素敵だと思うからこそ、“今”を残していきたい。

多種多様な相手から多種多様な方法で、“自己表現”を求められてきたかと思いますが、迷ったりブレたりしそうになったことはないですか?

アオイ

考えすぎてしまって、「結局、本当の自分ってどこにいるんだろう」という感覚に陥ることがあります。そんなときには、『勉強の哲学:来るべきバカのために』(千葉雅也/文春文庫)を読むようにしています。「そもそも“本当の自分”なんて、もしかしたらいないのかもしれない」と思えて、気が楽になるんです。もっと切羽詰まったときには、『思うとおりに歩めばいいのよ:ターシャ・テューダーの言葉』(ターシャ・テューダー/中経の文庫)を。ターシャのように庭をはだしで歩いて、1日に必ずティータイムをとって、お花を愛でて……、私もいつかはそんな風に暮らしたいから「今は頑張ろう」って思えるようになりますね。

今日のお洋服とてもお似合いで素敵です。そのバッグは、ご自身でペイントしたものですか?

アオイ

そうなんです。この筆は小学生の時から使っているもので、絵の具が固まって使いづらいんですけどこれで描くのが好きで……。カバンとコートにつけているブローチは、某料理屋を営む80代の大好きなおばあちゃんにもらったもの。そのおばあちゃんは赤裸々な身の上話から始まり、色々なお話を聞かせてくれるのですが、とても魅力的なんです。文通をしていて、ブローチもいただきました。歳をとることや時間の積み重ねって素敵なことなんだと彼女に教えてもらいました。

アオイさんにとって80歳となると60年後になってしまいますが、例えば、「5年後にこんなことをしていたい」という目標はありますか?

アオイ

形あるものを残していきたいですね。今は情報社会で、現れては消えていくものも多いですし、ダンスもその場で踊って消えてしまうものですが、みんなの手に届くところに残してみたい。記憶って、自分の都合良く変えられるものだと最近思うんです。本なのか映像なのか、形は問わないけれど、自分が生きてきた軌跡として見返せるものを作りたいですね。

「生きてきた軌跡を残したい」と思ったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

アオイ

最近、「生きるって一回しかないんだ」とよく思うようになったんですよ。これを言うと、「まだ若いのに」と言われるし、実際まだ自分もそこまで生きていないとは思うのですが、そう感じていること自体は事実。だから、その一回の軌跡を刻んでいきたいし、周りの評価を気にしている暇なんてない。もちろん昔は評価が一番怖かったけれど、今は「言うのもあなたの勝手で、やるのも私の勝手でしょ」と思えるようになりました。表現活動をしていきたいのであれば、人の言うことは良い意味で「気にしない」ようにしないと続けていけません。

なるほど、人からの評価をどう受け止めるかは表現活動をしている人がぶつかる壁なのですね。これからBE AT TOKYOに期待していることはありますか?

アオイ

こうして私を面白がってくれているのは、私が自然体でいるからなのかなと思うんです。商業的なものが評価されると思っていた時期もあったけれど、勝手に変なこと、面白いことをやっている人が増えたらいいな。BE AT TOKYOはそんな人たちに会いに行ける、見に行ける、パワースポットとして存在してほしいですね。私がやっているのはダンスだけれど、影響を受けるものはダンスに限らないし、自然体で生きている色々な人に会いに行きたいです。

DANCER

アオイヤマダ

2000年、長野県生まれ。ダンサー、モデル、表現者。「星の王子さま –サン=テグジュペリからの手紙–」王子役。ダムタイプ新作パフォーマンス「2020」、パリコレクション「ENFOLD」インスタレーションなどにも出演する他、米津玄師「Flamingo」、Nulbarich「VOICE」、夏木マリ「Co・ro・na」、などのMV、GUCCIやオニツカタイガー、OPAなどのモデルも務める。紅白歌合戦2019(NHK)ではMISIAダンサーを担当。

Instagram:@aoiyamada0624(https://www.instagram.com/aoiyamada0624/

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次の東京を創造していく表現者にスポットを当てたインタビューコンテンツ。