BEAT CAST
PHOTOGRAPHER
Julie Giesen
ギーセン珠理が、雑誌や動画を通してハッピーな言葉で伝えたいこと。
© 2020 BE AT TOKYO.
BEAT CAST
DENSUKE28
2021.02.26
謎の覆面集団Qiezi MaboがPUNPEEを迎えて発表した「Qiezi Mabo Forever (Fried Chicken Mix)」。現実と非現実な感覚が同居する、まるで夢の中を映したような同楽曲のMVをディレクションしたのが他でもない、CGアニメーターのでんすけ28号である。 その他にも、電気グルーヴの「DENKI GROOVE DECADE 2008~2017 DIGEST」をはじめ、THE NORTH FACE GORE-TEX INFINIUM™ PRODUCTS、MTV Japan "TOP 20"などの映像を手がけ、2017年に初めて「映像作家100人」に選出されて以来、2020年まで4年続けて入選している。彼の違和感と親近感を両脇からくすぐられるような映像は、鑑賞者に飽きる隙を与えない。 中毒性のあるCGアニメーションでクリエイターたちからも支持されるでんすけ28号とは一体何者なのか。訪れたのは都内某所にある彼のスタジオ。作業を横目に、彼の映像に対する独自のアプローチを探った。
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いきなりですが、「でんすけ28号」の由来を教えていただけますか?
でんすけ
これは、小学生のときにハマっていた育成系オンラインブラウザゲーム『リヴリーアイランド』で使用していたハンドルネームです。本名に特徴がないので、フリーで活動するなら印象に残るものがいいと思い、今でも愛着のあるこの名前にしています。名前自体に意味は無く、小学生だった当時に語感だけで付けたものです。
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(笑)。でんすけ歴、長いんですね。CGアニメーションに興味を持つようになったのは、いつ頃ですか?
でんすけ
CGや映像に着手したのは、大学2年の頃だっと思います。元々はグラフィックデザイナーになりたくて多摩美術大学に進学したんですけど、希望の学部ではなく、色々なカテゴリーを取り扱う情報デザイン学科メディア芸術コースに入学しました。そこで2年のときに授業で初めてCGに触れて、これは面白いなと。最初は仕事にしたいという感覚は全然なく、ただ自分の考えていることや表現したいことを何でもできることに、ただただ興奮して。
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実際にCG制作において、誰か影響を受けたアーティストや作家はいますか?
でんすけ
アイルランド出身のアニメーション作家、デイヴィッド・オライリーの作品や考え方からは大きな気付きがありました。ゲーム史上初めてアカデミー賞にノミネートされた『Everything』が有名だと思います。彼の作品は表面的にはポップなアニメーションですが、内容は結構ショッキングだったり、オライリーならではの哲学を取り入れたり、現代社会を風刺したりと社会性も垣間見えます。オライリー自身が執筆した『アニメーション基礎美学』という文献があり、そこに記されているCGアニメーションに対する考え方には影響を受けました。
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『アニメーション基礎美学』では、どのパートが印象的でしたか?
でんすけ
「3DCGアニメーションを作る上では、いかに一貫性があるかが重要」という考え方ですね。CGは何でもできてしまう。彼は逆にそこが危ないと指摘しています。自分の美学や表現を突き通すには、自分の美学をリアリティを持って訴えるには自らで様々な制約を設けなければならず、そうしなければその作品は“信じうる世界”にならない、つまり鑑賞者を没入させる作品にならないと。ただ、かっこいいという理由だけでエフェクトを入れるとノイズになる。逆に、クオリティが低い作品でも、一貫してクオリティが低ければ信じうるものになり得ると言っていて。彼の作品が好きだった理由を考えている際に、これを読むことで腑に落ちました。なので、僕も彼の考えを自分なりに解釈して、一貫性という言葉は常に頭の片隅に置いています。
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でんすけさんの映像全般に当てはまるような一貫性はありますか?
でんすけ
彼の論考をそのまま反映させているわけではないので、僕の場合は気を付けている程度ですが、あまり突飛なエフェクトは使わないようにしています。例えばモーションブラー(ぶれ)やグロー(光のエフェクトの一種)などのよく使われている映像効果でも無暗に使わない。はっきりとした色面分割的な質感をベースに描画しているのでグラデーションなどの使い所も慎重に扱うようにしています。質感も微妙なアップデートはしているけど、どんな質感でもできてしまうCGだからこそ、ひとつの質感に絞ってずっとやり続けるのが僕のスタイルでもあると思います。
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なるほど。
でんすけ
あとは、「あまり技術をつけない」という制約も設けています。技術力が0〜10まで段階があるとして、一番良いのは0か10。4、5、6なんかは最悪で、中途半端な技術力がノイズになりかねないし、下手に技術をつけすぎるとアイデアそのものが技術に基づいたものになってしまう可能性があると思っていて。オライリーの制約の設け方は技術を10にした上で自分の表現に必要なものを取捨選択していこうという感じだと思うんですけど、僕の場合は10まで持っていけるようなポテンシャルがないので、それなら技術をあまり身につけないでなるべく0に近い状態、つまり狭い選択肢しかない状態をキープすることでそれがある種の制約になり一貫性にも繋がってくるんじゃないかと。それに全員がそうではないと思いますけど、僕自身は技術や知識がない方が、アイデアの幅が広がるような気がして。経験値の少ない子供が絵を描くときに常識的ではない色使いをしてみたり、輪郭がめちゃくちゃだったりして、そこに面白さを見出したりするのと同じことだと思っています。
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技術に由来しない映像は確かに納得のいく解説ですね。映像を作る上で、最も比重を置いていることは何ですか?
でんすけ
コンセプト作りですね。僕の場合、実際に手を動かす時間は他のクリエイターさんと比較して少ないと思う反面、どういう世界観にするのかを緻密に考えるので、ここには惜しみなく時間を使います。その後にキャラクターデザインに入り、終わり次第、今度はシチュエーションを作って、最初に考えたコンセプトに合う空間をコラージュ感覚で完成させていきます。映像で使用するロケーションや小ネタは、僕のバイブルでもあるゲーム『グランド・セフト・オート』内で探すことも少なくないですね(笑)。僕の場合、そもそもCGを扱うことが大切ではないので、0から1を作ることに固執していません。頭の中にあるアイデアがアウトプットできればよくて、その手段として、たまたまCGは相性がいいんです。
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最も重要と言われたコンセプトやアイデアはどのように捻り出しているのでしょうか?
でんすけ
あまり自分から何かを摂取しにいくようなことはせず、ふと思いついたことや使いたいモチーフなどをメモ帳に残していて、その引き出しから、プロジェクトに合うものを取り出しています。メモの中から選んだいくつかの要素を掛け合わせてひとつのアイデアにすることが多いです。僕は意識の奥にある言語化できない既視感をくすぐるような作品を作りたいと思っているので、「今のこの感覚を忘れないように」とアイデアの断片をストックしていて、仕事はすべて、そのストックをもとにスタートしています。
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でんすけさんの作品は、登場するキャラクターの特異な動きも印象的ですよね。
でんすけ
ゲームのバグに着想を得た表現を用いるからですね。これもある種の既視感に由来しています。個人的には既視感と違和感の掛け合わせが好きで、ゲームのバグはそのどちらも持ち合わせた身近な存在だと思っています。
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Instagramのプロフィールに@magic_bibbyというアカウントがあるのですが、これは何ですか?
でんすけ
ビビーは、僕がプロデュースする僕のアバターで、代わりにパフォーマンスしてくれるキャラクターです。聞き馴染みのある言葉でいうと、Vtuberやバーチャルインフルエンサーのような存在、と言えば分かりやすいですかね。先程お伝えしたアイデアのストックも全部消化できるわけではないので、それを彼にやらせることでアウトトップしたりもしていますし、こいつが1人の人格があるキャラクターとして広く認知されたら嬉しいですね。『レディ・プレイヤー1』と言うと少し大袈裟かもしれませんが、僕は仮想世界としてのバーチャルという概念にすごく魅力を感じていて、リアルとバーチャルが違和感なく共存する世界になったらいいなと思っています。バーチャルインフルエンサーがいるのであれば、バーチャル一般人がいてもいいですよね? なので、ビビーがバーチャル世界を現実味のあるものとして認識させるための架け橋になってくれたらいいですね。
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大学卒業後、ずっとフリーで活動されていますが、何か具体的な目標や未来像はありますか?
でんすけ
正直、具体的な目標はなくて。昔は「何者かになりたい」「あの仕事をしたい」といった欲があったけど、最近はむしろ真逆で何者にもなりたくないというか。今はCGで映像を作ったり、グラフィックを作ったりすることが多いですが、自分の活動をカテゴライズせず、何か面白いことをやっているけど、一体何者なのか職業すら分からない存在になりたいですね。目標とは少し違うかもしれませんが、最近作りたいもののひとつとしては、24時間365日、ずっと流れている映像を作りたいとは思っています。意味がないけど見れてしまう映像ってたくさんあるじゃないですか。例えば、ビビーが生活している中で、ビビーが普段聴いている架空のミュージシャンのプレイリストが流れていたり、途中で天気予報のような情報が入ってきてもいいかもしれません。よくリゾートホテルの客室にあるテレビで、シャトルバスの案内とかホテル内のサービスの案内が映像で流れたりしているじゃないですか。あれってそこまで重要な映像ではないけど、流れていると安心しません?
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先程のバーチャルとリアルがより身近になるようなプロジェクトですね。実現、楽しみにしています。最後に、でんすけさんにとってTOKYOとはどのような街ですか?
でんすけ
色々なジャンルの人と交流や出会いのある街、ですかね。映像やCGの同業者はもちろん、一線で活躍される方、裏方に徹する方など、色々な人と交流できるのが東京で、人が人に影響を与え、それが連鎖していき、色々なアイデアが絶え間なく生まれる大きなコミュニティーみたいな感じです。
CG ANIMATOR
でんすけ28号
1993年東京都生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース卒業後、フリーランスでの活動を開始。幅広い領域でのクリエイションを求めて、ジャンル問わず企画、映像演出、アートディレクションなどを手掛ける。個人の活動ではビデオゲームのバグをテーマにした作品の制作やバーチャルキャラクターの運営、プロデュースをしている。
Instagram:@densuke28(https://www.instagram.com/densuke28/)
@magic_bibby(https://www.instagram.com/magic_bibby/)
次の東京を創造していく表現者にスポットを当てたインタビューコンテンツ。