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BEAT CAST

KUNIKO TAKEBAYASHI

銃で食材をハントする。「beet eat」竹林久仁子が広げる食の世界。

2021.03.19

Photo:Hiroyuki Takenouchi / Text:Shinri Kobayashi

世田谷区の喜多見駅から徒歩1分で「beet eat」に着く。ランチは数種のカレーとビリヤニ、ディナーはジビエのコースを提供する。“食の哲学”であるマクロビオティックに精通する店主の竹林さんは、自ら鹿や猪といった動物を狩猟し、肉へと解体し、手間暇をかけてお客さんに出す。そこには、食や生命への根源的な問いかけや、精肉システムとは違うオルタナティブな方法、そして健康と食事の関係など、様々な要素を読み取ることも可能だ。 「beet eat」が持つジビエ、マクロビオティック、カレーという要素は、大事故やアレルギー体質など様々な壁を乗り越える中で、思考し、行動してきた竹林さんの実人生が色濃く反映している。そのストーリーは、これから何かを始める、始めたい人にとっての大いなるヒントになるだろう。

狩猟は、食に対する責任感の表れ。

狩猟を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

竹林

野菜の種を自分でまいて収穫して食べる人はいますよね。同じことをお肉でもできないかなと。元々食のアレルギー持ちで、ひどい時は救急車で運ばれるくらだったので、添加物とかに神経質になったんです。でも、ふと、ちょっと待てと。そもそも自分はどこまで食そのものに対して、責任感を持っているのかと自問自答するようになりました。

狩猟はどこでやっているんですか?

竹林

鹿は北海道、猪と熊は長野です。ジビエ処理加工施設を所有しているベテラン猟師の先輩達に狩猟技術を教えてもらいながら、山に入ります。

動物の解体は、今の日本では珍しい経験かと。解体への抵抗感はありましたか?

竹林

ありました。いざ解体するとき、動物の体はでかいし、温かいし、怖かった。こんな思いをするなら肉食べなくてもいいんじゃないかなと思うくらい。でも、その一頭目を食べた時に、もう少しだけ狩猟に付き合ってみようと思いました。そこからとりあえずは、料理を始めるときに包丁を揃えて準備するのと同じように射撃の練習ばかりやりました。狩猟の師匠がいるんですが、その人の「狩猟は銃の腕をまず磨かなきゃいけない。なぜならチームで動いてるから、仲間を不安にさせるようなことがないようにしなきゃいけない」という教えもあり、クレー射撃で銃が上手くなって信用されなきゃいけないんだと。今でも練習は続けているんですが、東京オリンピックの3年前くらいに、僕がみっちり教えれるから、オリンピックを目指さない? と誘われたこともあります(笑)。当時は、オリンピックに興味もないし、お金もなかったんで、すみませんと。

狩猟で、獲物を仕留めるときのモットーみたいなものはありますか?

竹林

獲物自身が気付かないように、一発で仕留めることを心がけてます。実銃を使って、さらに仕留めた獲物を食べる人は、みんなそうだと思います。

北海道や長野に比べて、東京は何が違うと思いますか?

竹林

都会に離れて田舎に移住っていう人は多いと思うんですが、私はどちらにもいたかった。自然や山は素敵ですが、東京には、お金や友達など今まで築いてきたものがあり、地方にはない仕事もあります。お互い行き来できたらいいと思ってました。どちらもトライして無理だったら、その時にどちらか一本に絞ってもいいと思ってます。

壮絶な事故からマクロビへ。

自然食のマクロビオティックに目覚めたきっかけは事故だとお聞きしました。

竹林

30歳の時にバイクで信号待ちをしていたら、後ろからトラックに追突されて、切断するかもというくらい膝をひどく骨折しました。麻酔を打ったんですが、それが合わずに吐いてしまった。その時に初めて、薬をはじめ西洋医学も、その人に合う・合わないがあるから、カスタマイズしなきゃいけないのかもしれないと気付いたんです。

大変な事故でしたね。

竹林

事故から3年ほど車椅子生活で満足に動けず。動けないから次第に太ってしまったんで、どうしようかと調べていくうちに、マクロビオティックを知ったんですが、最初はダイエットのひとつだと思ってました。それからどうやら食事の哲学のようなものだということがわかって、マクロビの学校にに3年ほど通って勉強して、インストラクターの資格を取りました。

マクロビオティックとはどういうものですか?

竹林

よく野菜ばかりで肉を食べないイメージを持たれる方が多いと思うんですけど、そんなことはないんです。肉を禁じてもいません。肉を食べる人に、肉に対してどういう付き合い方をすればいいかというのを教えるんです。つまり、個々の最適なバランスがあるという考え方です。

先ほどの薬の個人へのカスタマイズと同じ考え方ですね。

竹林

でもそれには知識が必要だから大変。医者が言ってくれた事に従う方が安心だし、楽だということは分かります。それは人それぞれ選べばいいと思うんですけど、私の場合は自分で考えてやることを選びました。どちらにしても本人が安心な方を選ぶのがいいと思いますし、自分のような少数派の考えも否定されなければいいなと思いますね。

その辺りの、独立心というか自分で考える力が備わっていると思うんですけど、それは何か理由は思い当たりますか?

竹林

実は、幼い頃に両親を亡くして親戚の家に養子として引き取られました。だから、小学校に入る前から、自分で選択しなきゃいけないことが多かったんです。

苦手なカレーであれば、いけるかもしれない。

「beet eat」では、夜はジビエのコース、昼はカレーが主な提供ですね。カレーを始めたきっかけはなんですか?

竹林

マクロビの考えで食をストイックに見直していくと、食事が地味になるんです。アレルギーは病気とは違うので、反応が出るもの以外は、結構食べられるので、食事は楽しく取りたい。服と同じように、よそ行きと普段のものがあるように、たまにはよそ行きの食事をしたいなと。それまでカレーが苦手だったんですけど、アレンジさえすればいけるんじゃないかなと感じたんです。

苦手なのに、そこに光明を見出すってすごいですね(笑)。

竹林

インドにはベジタリアンが多いので、そのレシピを参考にするといいかなという直感でした。ちゃんとインドのスパイスの勉強をしたくて、オススメされたのが、香取薫さんのカレー教室ペイズリーでした。

インド旅行もされていますが、インドではスパイス研究をするんですか?

竹林

マクロビでは自分の環境と距離が離れたものはあまり取り入れないという考えがあるんです。だから、インドの山奥の珍しいスパイスを入手するような旅はしていません。スパイスの味や香りを楽しむのは全然いいんですけど、体にはどうなのかなと。インドでは食器を買ったりとか、ですね。

始めは自分の体のために学んだカレーが、どうやってお店になったんですか?

竹林

マーケットが小さいので、マクロビは、特に日本だと料理のコストがかかるんです。だから、自分が食べる分だけでなく、仕事としてお客さん相手にすれば、その余りを自分の生活に流すことができるんじゃないかなと。最初は、撮影クルーのケータリングを仕事として始めました。そこで、いろんなニーズに応えるため、そして自分自身の挑戦として色々と試してみるんですが、無添加じゃ価格が合わないとか様々な壁にぶち当たって。結局、食べる人たちに何が良かったかを素直に聞いてみたら、カレーと唐揚げがぶっちぎりの人気だったんです。それがすごく悔しくて(笑)。作っている私を飛び越えて、何だよ!って。そこでカレーを極めようと思ったんです。最初は、飲食店経験もなかったので、かけるべき原価などもわからず、採算度外視ですごくいい食材を使ってました。8割が材料費なんてことも(笑)。仕事の妥協点と、自分の体の妥協点が違うので、両者の擦り合わせに苦労しました。そこは今でも葛藤していますね。

ハードコアのDIY精神を忘れずに。

「beet eat」では、漫画家のイラストを使ったTシャツを販売したり、幡ヶ谷「PADDLERS COFFEE 」のイベントに出店したり、いわゆるカルチャー周りとの関係も深いと思うんですが、何か理由があるんですか?

竹林

仕事のパートナーの片桐君が、そのあたりと交流があるのも大きいんですが、ハードコアとか昔聴いていた音楽が影響していますね。ハードコアのDIYという精神性が効いている。(ハードコアと関係の深い)ヴィーガンストレートエッジとか、昔からめちゃくちゃかっこいいじゃんと思ってましたけど、当時はまだ生活に取り入れることはできませんでした。大人になってそのカッコよさを再認識したし、だからヴィーガンも全然苦じゃないんです(笑)。

鹿のステッカーもかわいいです。

竹林

MINOR THREATのアルバム『Out Of Step』のジャケットの羊を鹿に変えたステッカーです。元々のジャケットに描かれているブラックシープは、人と違うことをする変わり者っていうディスりの表現だったそうなんですが、人と違う事をすることを好意的に捉えて、鹿に変更しました。ハードコアの人たちは、ちゃんと歌詞まで聴いてみると、政治や社会のことを本気で歌っていて、そんなところもかっこいいなと。

ここでの食事でをきっかけに、美味しいものや大切なものは何かってことに気づいてくれたらいいですよね。

竹林

難しいですけど理想はそこですね。でも、間口を狭めてしまうのはもったいないとも思います。例えば“マクロビオティックといえば、あの店だな”って、ぱっと思いつくお店ってないじゃないですか 。押し付けてしまうと、何かを知ろうとするきっかけにはなりづらいので、押し付けないように。でも、特にジビエを食べにお越しになる夜のお客さんは、カウンター越しに食のお話をたくさんする方も多いんですが、食に対して考え直したり、見つめ直したりする人が多い印象ですね。

まずは美味しいということが大切ですね。

竹林

それと体に負担にならないもの、ですね。私は、体にいいものとは言いません。なぜなら、体にいいものは一人ひとり違うから。体に負担にならないものであれば、選べると思います。そういったものは、天然のものや自然な作り方のものが多いんですが、例えば、野菜の産地などそういった細かなことはあまり表現していません。それを言ってしまうと、それだけになっちゃうので、尋ねられたら答える程度にしています。でも、野菜を食べたら、すごいおいしいですねって皆さまおっしゃいます。

コロナに関してはどうですか?

竹林

もちろん影響はあるんですが、おかげさまで夜のジビエは割とすぐに予約が埋まります。あと、食だけに限定しなくても何かしらの形でお店は続けられるんじゃないかと思っていて、食以外のアプローチをこの店でやってみてもいいかもしれません。自然の流れの中で、焦らずに続けていきたいと思ってます。

BEET EAT OWNER, HUNTER

竹林久仁子

20代から様々な仕事を経験し、東南アジアなどバックパッカーとして旅する生活を送る。30歳の交通事故とその後の生活を機にマクロビオティックを学ぶ。その後、未経験だった飲食の世界へと飛び込み、狩猟と猟銃の免許を取得。2015年に「beet eat」をオープン。

beet eat
東京都世田谷区喜多見9-2-18 喜多見城和ハイツB1F
TEL:03-5761-4577
Instagram:@beet_eat_2015(https://www.instagram.com/beet_eat_2015/

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次の東京を創造していく表現者にスポットを当てたインタビューコンテンツ。