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BIEN

BIENが描き続ける「線」は、どこへ向かっているのか。

2021.04.02

Photo:Yutaro Tagawa / Text:Rio Hirai

ぐにゃぐにゃと有機的な線がキャンバスの上を這っている。何かの跡のような、見覚えがあるようなないような…。これまで一貫して、線を用いた表現を展開してきたアーティスト・BIEN。雑誌『EYESCREM』の表紙を飾り、個展を開催すれば作品は完売する。精力的に活動する彼の動向に注目している人は多い。ちょうど日本橋馬喰町のギャラリー「PARCEL」と神宮前のギャラリー「HARUKAITO by island」(神宮前)での展示の準備真っ只中だった彼に話を聞きに行くと、「今は、写真のようなイメージを持って線を描きたいと思っているんです」と語ってくれた。東京生まれ東京育ち、都会で育った彼にとっての“面白さ”がどこからやってくるのか、作品のルーツに迫る。

“自分”を表現するのではなく”自分が見た世界“を伝える。

BIENさんがアートの道に進もうと思ったきっかけを教えてください。

BIEN

小学校の頃から親の影響もあって、『レオン』や『007』などの映画のポスターに惹かれて集めているような子供でした。中学2年生くらいのときにTUGBOATという広告制作会社が手がけたドコモのCMを観て「かっこいい!」と思って、広告の仕事に興味を持ち始めました。美大のグラフィックデザイン学科を志したのもそれがきっかけです。大学在学中には実際にデザイン会社でアルバイトしたり、クリエイティブチームの手伝いをしていたのですが、広告制作は自分には合わなくて…。作家活動に絞っていきたいと思うようになりました。

どんなカルチャーに影響を受けていたのでしょうか。

BIEN

中高生の時には『STUDIO VOICE』や『relax』などの雑誌を読んで、裏原宿のカルチャーに興味を持っていました。グラフィティやグラフィックデザイン、ファッションシーンでも盛り上がっていたフィギュアカルチャーなどを見て、いろんなことが盛り上がっていた当時は楽しそうだなと思っていました。主に大学に入学してからは、現代美術の作家も知って、サイ・トゥオンブリ-や、静物画を中心に描いていたジョルジョ・モランディ、アンリ・ミショー、数え切れない作家の影響を受けていると思います。

学生時代には、どんなことを学んでいたのでしょうか。

BIEN

数年前に亡くなってしまったグラフィックデザイナー・佐藤晃一さんの授業は強く印象に残っています。なかでも「自分の個展のポスターを作る」という課題では、その当時に実際に個展を開けるほど自分の作品が揃っているわけではないので、“もし個展をやるなら、自分はどんなコンセプトで、どんな作品を展示するのだろう”と想定してポスターを制作しました。僕は2つ並んだ円に耳のような線だけを描いた『のっぺらぼう』というタイトルのポスターを制作したのですが、それを見た先生に、アンフォルメルと呼ばれる抽象表現主義の作家たちを教えてもらいました。その時にそれらの作家の存在を知れたことは、僕の表現の入り口になっています。

『のっぺらぼう』※一部改変

卒業制作の作品

今のBIENさんの作風は線が特徴的なドローイングですが、この表現に辿り着いた経緯は?

BIEN

大学の卒業制作ではポスターを作りました。学生時代の経験から、自分は「平面」に強く興味を持っていると気がついたので、平面からイメージが表出する瞬間や、“存在の境界”を意識させるような作品を作りたかった。“キャラクター”を象っている輪郭に着目し、それを曖昧にした時にどの地点まで“キャラクター”を認知させられるか、このときは一枚の紙をモチーフの影の輪郭線で所々切ることで、“半”平面、“半”立体のようなポスターを制作しました。この卒業制作の作品が、今の線を用いた表現にも繋がっていると思います。

作家活動に専念するに至るまで、広告の仕事を「自分には向いていない」と感じたことと、自分のやりたい表現が見つかったこと、どちらがより強いきっかけになっているのでしょうか。

BIEN

それは、どちらも同じような割合だと思います。自分がやりたい表現もあったし、広告の仕事をやりながら表現活動を続けるのは難しいだろうという判断もありました。アシスタントデザイナーとして仕事をしていた時も作品は作り続けようと思っていましたし、在学中からアルバイトをさせてもらっていたクリエイティブチームにもその意向は伝えていたんです。人の要望を聞いてデザインすることも広告の仕事の面白さだと思うのですが、僕はだんだん自分の欲の方が大きくなってしまった。最初から自分がやりたい事だけやりかったんですね(笑)。今でもグラフィックデザインを見るのは好きですけど、仕事として自分には向いていないのがわかりました。

BIENさんがものを作っているときのモチベーションを教えてください。

BIEN

僕は“世界をどう見るか”について興味があって、それを自分なりに表現したい。もちろん根底には、単純に“絵を描きたい”という気持ちも変わらずあるんですけど、今は自分で見たものを写真に撮るようなイメージで伝えていきたい。ずっと撮っている写真も、“自分”を表現するわけではなく、あくまで“自分が見た世界や光景”を表現したいと思って撮っていて。最近は、そのイメージがドローイングに近いのではないかと思っています。作家活動に専念した時から、結局自分はやりたいことをやるだけ。仕事やお金は結果として付いてきたらいいなと思ってここまでやってきました。

自然と人工物は、結局繋がっている。

「Reborn-Art Festival 2017」の展示風景

線を“描く”だけでなく“削る”、今のスタイルに落ち着いた経緯についても教えてください。

BIEN

削り始めたのは、宮城県石巻市で開催されたアートフェス「Reborn-Art Festival 2017」に参加して、3ヶ月ほど滞在したのがきっかけです。その時に虫食いの跡がついた木片を見つけて、それが僕の線に似ていると思ったんですね。虫が食っているのに線が妙に均等、なのに有機的ですごく面白いなって。僕は最初、デジタルのイメージで均等な線を描き始めたのですが、そこからはかなり対照的だと思っていた自然物に似ていたことにびっくりしました。その虫食いの跡を見て、自分も削ってみようと。木片に引かれたラインは虫食いの跡だけど、僕の作品は機械で作った跡。僕は壁画も作るんですが、壁画も石器時代から存在するアートなので、そういう意味では、“昔からあるものと現代のものを繋げて世界を見る”のを面白がっているのかもしれません。以前は、東京で生まれ育って自然にあまり馴染みのなかった自分が、自然から由来したイメージを作るべきじゃないのかなと考えたこともあったのですが、結局は繋がっているもので、最近は区別する必要もないと思っています。

「分からない、はっきりしない」から面白い。

表現活動の行程で一番ワクワクするのはいつですか?

BIEN

最初に自分のやりたいことを考えて、実現できそうだと糸口を見つけた時でしょうか。その後は面倒くさい作業もたくさんあるんですけれど(笑)、完成形が見えてくるとまた興奮しますね。個展を開催する際も、コンセプトを考えついた時と、展示のイメージが完成形に近づいた時は嬉しいです。

Photo:Shusaku Yoshikawa

BIENさんはキュレーターとして、グループ展も開催しています。(「PARALLEL ARCHEOLOGY」2020年7月、OIL by 美術手帖にて)どうして開催しようと思ったんですか?

BIEN

以前から、博物館のような展示をやりたいと考えていました。でもストレートにはしたくなかった。僕は自分の作品に洞窟壁画のようなイメージを持って作っているところがあって、骨董品として扱われたり、欠片しか残っていない未来があっても面白い。実際に古物を収集している「アウトオブミュージアム」の小林眞さんや、作品のインスピレーションが僕と似ていたルーカス・デュプイというアーティストに声をかけました。平行世界にあったかもしれない考古学の展示をイメージして「PARALLEL ARCHEOLOGY」と展示タイトルを冠して、展示されているものが作品として作られた物なのか、どこかから出土した物なのかが“分からない”状態を作りたかったんです。

BIENさんにとってBE AT TOKYOはどういう場所であってほしいですか?

BIEN

アートに携わる人も含めて様々なカルチャーに携わる人が、分け隔てなく交われる場であってほしいです。自分たちがカテゴライズされたくないと思っていても、周囲はどうしてもカテゴリーに分けてしまいがちだと思うので、ミックスされる場所があったら面白そうですよね。

5年後の目標や、「こうなっていたい」という具体的なイメージがあれば教えてください。

BIEN

あんまりないですね。ただ、日本にずっといるのも面白くないし、海外に滞在してみたいという思いはあるのですが、こんな世界になってしまって…。落ち着いたら、世界の色々なところを見てみたいです。別に住みたいとは思っていないのですが。

ARTIST

BIEN

1993年、東京都生まれ。ストリートカルチャーやアニメーション、フィギュアなどの表現に影響を受けた独自のドローイングスタイルを持ち、躍動的な線によって抽象絵画などを制作。昨年7月には、自らがキュレーションを手がけたグループ展「PARALLEL ARCHEOLOGY」を渋谷パルコ内のOIL by 美術手帖ギャラリーで開催。現在、3年ぶりのペインティングを中心とした展示「DUSKDAWNDUST」を、PARCEL(馬喰町)とHARUKAITO by island(神宮前)で開催中。PARCELは4月30日、HARUKAITO by islandは4月18日まで。
@bien_jap:https://www.instagram.com/bien_jap/

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次の東京を創造していく表現者にスポットを当てたインタビューコンテンツ。