BEAT CAST
SOFTMACHINE DIRECTOR
KOSUKE YAMAGISHI
趣味をクロスオーバーして生まれる表現。SOFTMACHINE・山岸航介のライフスタイル。
© 2020 BE AT TOKYO.
BEAT CAST
RISA
2022.05.27
ダンスをきっかけにブラックカルチャーに触れ、現在はHIP HOPを題材にアート作品を生み出すRISAさん。「アーティストとして活動をするとは思っていなかった」と語る彼女は、どのようにしてその階段を登ることになったのか。現代的なメソッドを活用し、名実ともに成長を遂げる自身のこれまでとこれからについて語ってもらった。
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RISAさんは小さな頃から絵を描いていたんですか?
RISA
おばあちゃんが書道の先生で、物心つく頃から書道をやっていました。だから小さな頃から紙に何か書くのが好きで、絵を描くことも大好きだったんです。だけど、思春期を迎えてもそれを仕事にしようとは思っていませんでした。それよりもダンスに夢中でしたね。小学生の頃に安室奈美恵さんをテレビで見て、憧れて、それでダンススクールに通いはじめたんです。
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そこでブラックカルチャーにはじめて触れたわけですね。
RISA
結果的に、ですね。通っていたスクールの先生がよく海外へ行っていて、そこから持ち帰ってきた曲とかをよくかけていて。だけど、私が小学生の頃はShazamとかYoutubeがない時代だから、なんとなくのリズムやメロディーが頭の中に残っていて。
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そこからずっとダンスを続けているんですか?
RISA
中学生のときに1回やめて、それからまた続けて、いまはアーティストとして絵を描く一方で、ダンススクールの講師もしています。中学で一度やめちゃったのは、友達と遊びたかったというのもあったし、成績が下がってしまったというのもあって(笑)。
だけど、高校生のときに友達に隣町のダンススタジオに誘われて、またやりたいと思って、バイトしながら自分で月謝を払って通うようになったんです。そのときにIPPOさんという先生に出会ったんですけど、IPPOさんがかける音楽を聴いたら、なんとなくなじみがあったというか、聴き覚えがあって。
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それがHIP HOPだったと。
RISA
そうですね。トライブ(A TRIBE CALLED QUEST)を筆頭にNative Tongues周辺のアーティストだったり、幅広いジャンルでたくさんのいい曲を教えていただきました。IPPOさんの教えてくださる曲はHAPPYな気持ちになれるものが多く、自分のダンスとも凄くノリが合ったんです。
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ノリが合ったというのは?
RISA
Native Tonguesの日常的な歌詞とか、自分は自分でいいっていうような考え方には共感するところがあって。アートワークもノリもすごく好きですし、いいなって思えるんですよね。私がモチーフとしてDe La Soulやトライブをよく用いるのは、そういう理由なんです。
ー
ダンス・スクールに通っていなければ、いまこうしてHIP HOPを扱うアーティストとして活動をしていなかったかもしれないですよね。
RISA
たしかにしてなかったかも。踊るのは単純に楽しくて、それで好きになって続けていたんです。
ー
そこからどのようにして現在の活動に繋がっていくんですか?
RISA
私は高専の学校に通っていて、卒業後は銀行に就職したんです。当時、ダンスはいまのようにメジャーな仕事ではなかったし、家族を安心させるためにも就職しようと思って。だけど、銀行の仕事はすごく大変だし、そこで働くことに誇りはあったけど、やっぱりなにか物足りなさがあって。学生の頃にいろんなことに挑戦して毎日のようにワクワクしていた日々が恋しくなってしまったんです。
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就職してからもダンスは続けていたんですか?
RISA
趣味として続けていました。そんなときに、さっきも話したIPPOさんの発表会に出ることになったんですけど、それがすごく楽しかったんですよ。人前で踊ることの楽しさを再確認したというか。それで我慢して働くのは違うんじゃないかと思うようになって、母親に相談したんです。「東京に行きたい」って。すると、「1回就職したし、頑張ったんならいいんじゃない?」ということで、あっさりとOKをもらえて。
それで上京して、バイトしながらレッスンに通って、ユニットも組んで活動をしていたんですけど、東京のレベルの高さに衝撃を受けて。地元では上手いほうだと思ってたけど、全然レベルが違って、私はまだまだなんだと壁にぶち当たったんです。
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世界の広さを知ったわけですね。
RISA
それでもガムシャラにがんばるしかないと思って毎日のようにレッスンに通っていたんですけど、バイトしながらになるし、寝る時間も少ないし、生活の不安定さに悩むこともあったり。ショーに出させてもらうようになったけど、チケットノルマもあったりして、いまの生活を続けてちゃんとダンスで食べていけるようになるのか、すごく不安な日々を過ごしていたんです。
そんなときにIPPOさんから連絡が来て、「『HOUSE PARTY』っていうイベントをやるから、絵が得意ならフライヤーを描いて欲しい」って言われたんです。それで描いてみたら思いの外好評で、その後も依頼を受けるようになったんです。
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東京に来てからもコンスタントに絵を描いていたんですか?
RISA
そうなんです。絵を描くのが好きだったから、それに関わるバイトをしていましたね。LINEスタンプとか、プリクラのスタンプをつくるような仕事をしていて。そこでIllustratorの使い方を覚えたりとか。
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ダンスが生活の中心にありながらも、絵を描くことで自分自身の世界観が広がったり、気持ちが安らぐような感覚はあったんですか?
RISA
絵の中だけは自分の好きなことが表現できていましたね。自分が自分でいられる場所というか。絵って自由だし、自分が好きで描いているぶんには「こうしたほうがいいよ」って言われることもないですし。だからすごくリラックスできたというのはありますね。不安になることや、悩むことはあったけど、一方では絵があったからこそ楽しくいられたというか。
ー
IPPOさんからフライヤーの依頼がコンスタントに来て、本格的に絵にも力を入れていったんですか?
RISA
「HOUSE PARTY」の5回目のときに、それまではいつも決まったキャラクターを描いていたんですけど、「自由に作ってみて」と言われたんです。私の勝手なイメージで、OLD SCHOOL系のアーティストの写真をランダムにコラージュして提案してみたら、「どうしてこういう組み合わせなの? OLD SCHOOLに特化したイベントじゃないし、そもそも『HOUSE PARTY』なのに、KID’N PLAYを外すのに他のアーティストが入ることも違和感」ってアドバイスをもらって。
ー
『HOUSE PARTY』は、KID’N PLAYが出演した映画からきているんですね。
RISA
いま思えば、なんとなくアーティストを詰め込んだだけで、なんのカルチャーも分かってないような組み合わせだったと思います。それでKID’N PLAYの絵をリアルなタッチと、ちょっとキャラクターっぽいタッチで描いてみたら、「キャラクターっぽいほうがいいね」ってなったんです。それで「このタッチでいろんなジャケットをモチーフに描いてみたら?」とアドバイスもいただいて。そこからこういうモチーフで絵を描くようになったんです。
ー
こうしたキャラクターっぽいタッチはどんなところから影響を受けているんですか?
RISA
キース・へリングとか、藤子不二雄先生もそうですけど、黒縁のラインがはっきりした絵がすごく好きなんですよ。こういう太いラインにすごく影響を受けていますね。
ー
この眠たそうな目も特徴的ですよね。
RISA
フライヤー以外でいちばんはじめに描いたアーティストはDe La Soulだったんですけど、この眠たそうな目で描いてみたらすごくしっくりきて。これを定番に描いていたら、みんなに「なんか眠たそうだね」って言われたんです。
前にHIP HOPカルチャーを扱うアパレルブランドの〈ラップアタック〉さんとコラボさせてもらったことがあって、そのときに「SLEEPY EYEだね」と言われたときに、そう名付けようと思いました(笑)。そこで基盤ができあがりましたね。黒縁の太いラインと、この眠たそうな目の組み合わせで私の絵だと認識してくれる方が多いんです。
ー
そこにRISAさんらしさがあると。
RISA
リアルなタッチで描くのが苦手だし、絵が上手い人って世の中にたくさんいると思ってて。ひと目見たときに私の絵だと認識してもらうことが重要じゃないですか。
ー
SLEEPY EYEは、はじめに狙って描いたんですか?
RISA
アメリカのHIP HOPのアーティストって、ちょっと悪そうな目をしているじゃないですか。もともとはそれを表現しようと思ってたんです。ちょっと睨んでいるような感じというか。それが趣旨と違って眠たそうと捉えられただけなんです(笑)。でも、De La Soulの『3 Feet High and Rising』を見ると、実際眠そうなんですけどね(笑)。
ー
フライヤーから派生して絵を描きはじめて、そこでアーティストとして活動しようと思ったんですか?
RISA
インスタグラムで作品を掲載していたんですけど、実際に展示をしたいと思うようになって。それであるとき「個展をしてみれば?」とバイト先の先輩に言われたのがきっかけですね。それで調べてみたら結構お金がかかることを知り、どうしようと思ったんですけど、ちょうどその頃クラウドファンディングが流行りだした時期だったので、これだ!って。
ー
なるほど。クラウドファウンディングを利用して個展の資金を集めたわけですね。
RISA
他力本願かなとも悩みました。でも、お金を集めるというよりも、いろんな人に知ってもらえるチャンスだと思ったのがいちばんの理由です。投資をすることで興味を持ってもらえるし、アクセスのいい場所で開催すれば絶対に来てくれるだろうなって。もしかしたら目標額に届かないかもしれないという不安な気持ちもありましたが、挑戦したらありがたいことに目標を達成できて。それで2019年に原宿ではじめて個展を開催したんです。
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そのときはどんな作品を展示したんですか?
RISA
HIP HOPのレコードのジャケットをモチーフに、350点ぐらい描いていたのですが、その中からLPサイズの作品を80点近く選んで展示しました。それをレコードショップみたいに並べて飾ったんです。HIP HOPをモチーフに作品を描いている人は私以外にも世界中にたくさんいるけど、シリーズとしてこんなに描いている人はいないという自負があったので、そこは自信を持って開催しました。1年半くらいかけて描いて、本当に好きだという気持ちを込めて。
実際にやってみると、クラファンで応援してくれた方々はもちろん、そうじゃないお客さんもたくさん来てくださって。コミュニケーションを通して私の知らない知識を丁寧に優しく教えてくださる方もいらっしゃって、本当にやってよかったですね。
ー
当時もまだバイトをしていたんですか?
RISA
バイトはその1年前くらいに辞めて、ダンスのインストラクターとして子供に教える仕事をはじめました。それはいまでもやっています。ダンサーとして活躍するのではなくて、子供たちにそういうきっかけを与えることのほうが向いているなと思って。
ー
いまはアートとダンスのインスタラクターで、二足のわらじを履いているわけですね。
RISA
はい、収入としては半々くらいですね。だけど、そのふたつが相互的に作用していい影響を与え合っていると思います。子供って発想が自由だし、流行りものに敏感だし、作品のアイデアをもらうことがたくさんあって。振り付けでも新しいことを考えることをずっとやっているから、本当にいい関係で成り立っています。
ー
個展をやってから、アートも軌道に乗ってきた感覚はあるんですか?
RISA
個展が終わった後もアートを仕事にしようとは思っていなくて。というのも、上にはまだまだすごいアーティストがいるし、そもそもデジタルで描く技術しか持ってなかったから、アーティストとして名乗るのにはまだ早いと思ってたんですよ。でも諦めずに活動を続けて、ようやくここ1、2年くらいで仕事として成り立っていると実感できています。
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いままでにどんなクライアントワークをやられてきたんですか?
RISA
ZEEBRAさんのファーストアルバムをアナログで再発したんですけど、その特典の塗り絵を描かせてもらったのが大きな仕事のひとつです。それはめちゃくちゃうれしかったですね。日本のHIP HOPシーンを牽引している方だから、とてもありがたいなって。
あと、いま着ているTシャツは〈APPLEBUM〉さんとのコラボなんですけど、コラボさせていただく前に創業者の坂口さんとオンラインストアの店長の青栁さんと対談させていただきました。
HIPHOPカルチャーに精通されている〈APPLEBUM〉の方々が、絵を気に入ってくださったことはもちろんですが、私のバックボーンや想いを知ってくださった上で、お声掛けくださったことは物凄く嬉しかったです。
ー
HIP HOP以外の題材でオーダーが来るときもあるんですか?
RISA
最近あったのですけど、すっごく大変でした。私っぽい絵が描けなかったり、あまり面白みを感じられるものが生み出せないことに苦労して……。1ヶ月くらいかけて、どうにか自分でも納得いくものができたんですけど、ゼロから生み出すのはすごく大変でしたね。
ー
今日取材をさせてもらっている浅草の「813 Gallery」では合同展を開催されてますよね。
RISA
そうですね。A TRIBE CALLED QUESTをテーマにした「TRiBE展」(※現在は会期終了)をやっていて、過去にもここでは合同展に参加させてもらいました。あと、FACE RECORDSさんでも作品を展示してもらっていました。
ー
6月4日から「BE AT STUDIO HARAJUKU」で開催されるイベント「ART OF HIP HOP」でも作品を展示されますよね。
RISA
いままではプリントものが多かったので、手描きの作品を展示するのと、あとはタフティングという手法を使ってオリジナルのラグも制作しようと思ってます。
ー
新しいアプローチにチャレンジするということですね。
RISA
そうですね。以前この「813 Gallery」でグループ展に参加させてもらったときに、私はプリント作品だけを展示したんですけど、お客さんが来たときに一瞬しか見てもらえなかったんです。やっぱり他のアーティストの手の込んだ作品は、間近で見られたり、いろんな角度から鑑賞されたりして、足が止まるんですよね。
ー
たしかに人の手がかかったものは、絵の具がどうやって塗られたりだとか、立体物でもどうやってそれができたのかというのが気になったりしますよね。
RISA
そうなんです。私も人の作品を見るときはそうするんですよね。生で見るものだからこそ、そういう部分に力を注がないといけないと思ってて。イマジネーションを膨らませるようなことをしたい。私らしいSLEEPY EYEと太いラインは残しつつも、プリントにこだわらず、いろんな手法を加えたものを展示する予定です。
ー
実際に展示の会期は間近で、そうした新しい作品をいま製作中なんですよね。チャレンジをしていてどうですか?
RISA
楽しいです。インスタでも製作中のリールを上げたりしているんですけど、興味を持ってくださる方が増えているのを感じます。実際に「それどうやってるの?」っていう反応がありますし。自分自身、新しい発見もあったりして、すごく充実してますよ。
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モチーフはどんなものにするんですか?
RISA
それは来てからのお楽しみということで(笑)。
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なるほど(笑)。先ほど「ゼロから生み出すのは大変」と仰っていましたが、作品以外で自由に絵を描くときはブラックカルチャー以外のものも描いたりするんですか?
RISA
ブラックカルチャー以外のものも描きます。例えば好きな人、物、思い出だったり。ただ作品として出すときは、統一感があったほうがいいと思っているので、表には滅多に出さないです。いまは元ネタがあるものばかり描いていますけど、今後はそうじゃない絵ももっと描きたいですね。それができるようになってはじめて一人前のアーティストだと思うので。
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今後の目標はありますか?
RISA
いまジャケットアートを1,000枚描くことを目標にしているんですけど、ちょうど500枚くらいまできたんです。そのゴールを目指してます。それをクリアできたら見えてくる景色が絶対あるし、そうやって1,000枚描いた人っていないと思うから、自分の実績にもなるなと思ってて。
また国内外問わず、たくさんの土地を旅して、その土地のカルチャーに触れたいですね。そして、願わくば展示もしたい。それが大きな目標です。そして未来に残るような作品をつくりたいです。いろんな人に「こういうアーティストがいたんだよ」って言われるように。教科書や図鑑に載ることができたらいちばん最高なんですけど、とにかく夢は大きく持ちつつ、いまできることをきちんとやっていこうと思います。
ARTIST
RISA
1988年生まれ、山口県出身。小学生からダンススクールに通い、そこでブラックカルチャーと出会う。学生時代を経て、地元・山口で就職するも、ダンサーになる夢を追いかけて上京。絵を描く仕事で収入を得ながら、ダンススクールに通う日々を過ごす。その中でフライヤーデザインの依頼を受けたことをきっかけにアート活動もスタート。原宿にて自身初となる個展を開催し、その後もいくつかの合同展に参加。22年6月4日から「BE AT STUDIO HARAJUKU」で開催される「ART OF HIP HOP」にて作品を展示予定。
Instagram:@risa_attitude(https://www.instagram.com/risa_attitude/)
次の東京を創造していく表現者にスポットを当てたインタビューコンテンツ。